2008-06-27 Fri 01:59
[未分類]
そこは先の見えない茶色い茶色い果て無き地平線。
無数の砂粒のせいで視界は悪い。
そこを並の車をゆうに越えるスピードで低空飛行する影が1つ。
「ック!バイキンマン!どこにいるんだ!?」
自分の顔に多量の砂が当たり、少し苦しげにパンは叫んだ。
「・・・食らえ!!」
「―――」
数秒後に通り過ぎるハズだった砂地から、黒い物体が突如に立ち塞がる。
パンは驚いた。人で例えるならば100M走を走っていれば、いきなり目の前に敵が現れ、襲ってくるのだ。歴戦の経験がなければ、動けずに硬直いただろう。
それを感覚のみで体の一部を地に接触させながら右下にそれた選択は流石と言っていい。
「っちぃ。大人しくやられな、アンパンマン!」
UFO状の謎めいた機械に乗った黒い人のような生物が叫ぶ。
「・・・もうやめるんだ! 君と戦う理由は僕にはない」
「うる―――さい!!」
前座に紫のアームがパンに掴みかかり、避けるであろう場所に事前にミサイルを打ち込む。1秒にも満たない行動だ。スムーズな動作に被弾を避けることはできなかった。
「っう!」
赤い服の右脇腹部分に焦げ後が残る。着弾、爆破の寸前に体をスピンさせ、直撃を避けたのも経験のなせる技としか言いようがない。
「お前はいつもいつも俺様に勝ちやがる。そして止めを刺さずに去って行く!気絶やぶっ飛ばすくらいじゃまた襲われるとわかっていてなぁ!」
攻撃は続く。アームの左手には上空の少しだけ見える太陽光により、黒光りする銃だ。右手ではハンドを駆使し、追撃している。以前までの闘いでは銃は2丁だったが、パンの驚異的動体視力を考慮し、今回は銃を一丁だけ使っているのだ。
「君だってみんなと同じのハズなんだ!ただ普通に笑って、遊んで―――」
右のアームを引きちぎりながら、真摯な思いから言葉を繋げる。
「うるさァーい!!!」
銃を全弾撃ちつくし、投げつけた空銃は小規模な爆発を起こし、パンの視界を曇らせる。
「バイキンマン!」
願うように問いかけるが、黒煙が晴れた先には対戦者はおらず、茶色の砂塵だけが舞っている。
「・・・?」
辺りを見回すが、何もない。
「っつ・・・」
僅かに傷ついた部分が傷む。
一度下に下りて荒れた呼吸を正そうとパンは考える。
宙に浮くというのは意外に体力を使う行動なのだ。
「来い!!!」
「!?」
その選択は間違いだった。
「ァァァアアアァアア!!!」
足元に軽い熱を感じた直後。
砂の地面は爆破され、パンは地下へと落ちていった・・・。
怖い怖い怖い。
俺様は何を脅えているのだろうか。
いつものように勝手な振る舞いを行い、非難を受けながら孤立することを心の奥で望んでいたハズだ。
けれど
「待つんだバイキンマン!」
アイツが現れた。
暴力という行為でのさばっていた俺様を、同じ暴力を振るい、倒した。
最初はただ悔しかった。
意味が中々理解できなかった。
ヤツの暴力にはどこか清々しいものを感じてしまう。俺様のとは違う、何かが違う清々しさがある。
それがわからなくて、アイツの行く先で悪さを繰り返す。
何度かは追い詰めた。
相手が死んでもおかしくないような方法を選んだタメだ。
けれど最後に負けているのは俺様であり、アイツはいつも自分を殺そうとした相手に止めをささず、去って行く。
たまらなく悔しかった。
さらに俺は今も原因のわからない恐怖を内包している。
「くらえぇえぇ!!!」
「っやめるんだ!」
何日も何日も徹夜し、数ヶ月がかりで作り上げた土竜をモチーフにした兵器。これが暴れればそこらの町は数時間で壊滅させるだけの破壊力をつけた。顔面部分のドリルは一秒間に最高速度で20回転する。掘削機を参考にし、完成させた。
全部アイツを倒すために。
ただ、それだけのタメに。
「ッゥグア―――!!!」
「くだばれ!アンパンマァーン!!」
地面に落下した直後、兵器を突撃させて正面衝突の形に持っていった。何度もシュミレートした結果のリアル。
誰も知らない城の地下室で毎晩描いていたもの。
今度こそ勝ちたいから。
目の前の宿敵は大型ドリルを真正面から受け、苦しい表情だ。背中はこの地下洞窟の端になるため、逃げ道はない。
最後の問題
「君はどうして―――素直になれないんだぁぁあ!!!」
コイツが使う奥の手。何度も何度もこのシンプルな技のせいで地面を舐める結果になった。
まずい砂の味も忘れられないが、いつも自分がピンチになるまで使わないコイツに腹を立てた。
「−−−く−−−ぅ」
衝撃も計算していたが、機械内部の自分の体がここまで影響を受けるとは思わなかった。
けれど、瞬間破壊力の拳に対してこちらは持続性の高いドリルだ。
この一瞬さえ乗り切れば―――勝てる
「うおおぁぁあああぁ!!!」
初回の衝撃を乗り切ったが、コイツは更に渾身の力を込めてまだ威力を上げてくる。もうすぐこの兵器の最大威力を上回ってしまう。
「どうして・・・君はァアぁああぁ!!」
「うるさぁあぁあぁぁあい!!」
操作するレバーに力を込める。
何度このやり取りを繰り返しただろうか。
「っくぁぁぁ!」
「・・・っ」
ついにパンチ力が弱まる。一度崩した体勢は簡単には戻らない。
つまり、勝った。
しかし
コイツの叫び声で何故俺様が動揺しなければならないんだ。
――――そんな所にいないで、一緒に遊ぼうよ―――
・・・くそぉ!
不意に脳裏に浮かんだ言葉。雑念が混じったことでレバーに込める力が弱まった。
メキメキギガァ
「!?」
「ばいきんまぁぁぁん!!!」
ついに俺様の兵器を上回った。
・・・ふざけるな。
ガガッガガガメキィィィ
またお前は俺様を越えるのか。
ガガガアァァァアギギギガァ!
お前はいつもいつも、いつもいつもいつも!!!
ふざけるな!
頭で考える前に、脱出ボタンを押す。
同時に、自爆ボタンも。
「な!?」
兵器は一瞬だけ内部動力が燃える発光を見せ、熱反応に変わる。
このパターンは想定外だったので、俺様まで爆破に巻き込まれる。
ここで一旦思考は止まった。
どうして君はボクの話を聞き入れてくれないんだろう。
だけど信じている。君は素直になれないだけなんだよね?
今までの悪さを一番気にしているのは、君自身なんだよね?
・・・君はあの日を覚えているだろうか。
皆で遠くの山にピクニックに行った日。遊んでいると、遠くの方で君がこっちを見ているのに気づいたんだ。
ボクは少し怒った。
また悪さをするんだと思って。
けれど君は何をするでもなく、背中を向けて去っていった。
最初はなぜだかわからなかった。
少し考えてわかった。
君も本当はみんなと遊びたいんだって。ちょっと恥ずかしいだけなんだって。
だからボクは、皆と一旦別れて君を追いかけた。
山奥の森林、いつも君が乗っている機械の前で追いついた。
「待ってバイキンマン!」
「・・・なんでここにいるんだ」
「さっき見かけちゃって」
ちょっと照れ笑い。何も考えずにきちゃったな。
「なんだよ」
「そんな所にいないで、一緒に遊ぼうよ」
「―――!?」
もう悪さなんかしないで、皆と遊べばいい。独りでいるより絶対楽しいと思う。
そして、そのまま友達になれたら嬉しい―――
「ふざけるな!」
「え・・・」
怒ったまま機械に飛び乗り、そのまま君は飛んでいってしまった。
なんで・・・だろう。
何か怒らせるようなことを言ったのだろうか。
ずっと気になる。
それから君に何度も襲われたけれど、ずっと信じてる。
君も本当は、皆と一緒に遊びたいだけなんだって。
信じてる。
「あ・・・」
眼が覚めた。
ここは・・・砂漠の地下洞窟・・・。
そうだ。ボクはバイキンマンと闘って−−−。結構大規模な爆発だったけれど、彼は大丈夫だろうか。
「う・・・」
体がものすごく重い。顔にもダメージが大きいようだ。頭が朦朧としてくる・・・。
引きずるように洞窟内を歩き回る。
「みつけた」
黒い体を横たえ、ピクリとも動かない。
ゆっくりとしゃがみ、首の脈を計ってみる。
「よかった・・・」
生きている。
安堵感と共にそのまま倒れてしまった。
今日は・・・疲れたな・・・。帰りが大変そうだなぁ・・・。
「!?」
意識が回復する。最初に気づいたの俺様の横で倒れているアンパンマン。
首に手が当てられている。首を絞めようとしたのか?
・・・いや、生きているか確認しただけか。そしてそのまま・・・。
くそっ。だからお前は甘ちゃんなんだよ!
今日のなんかは確実に死んでた。壁とドリルに挟まれて。
けれどコイツは当然のことのように俺様の安全だけを確認して意識を失いやがった。
くそっ、くそっ・・・。
「・・・」
横で苦しげな寝息を立てる人工生命体。どこぞの親父が何を思ったのか、パンに命を与えやがった。意味がわからない。
そして、その作られた命であるコイツにいつも敗北する自分。俺様はなんなんだろうか・・・。
―――気がつけば独りだった。
厳しく辛い谷に生まれ、アテもなく彷徨いながら毎日生きることだけを考えた。
カビから生まれた生命体を従え、谷の世界を生き抜いていった。
最初は様々な生物に対応しきれなくもなった。耐え切れずにカビ達と明るい世界に逃げ出した。
初めて会う俺様と同じ姿をした者達・・・。
そこは公園と呼ばれる場所であり、皆楽しみながら遊んでいるのが見えた。
ただ眩しくて、そこに近づいた。
「ん、君だーれ?」
「・・・!?」
初めて話しかけられた。不思議と言葉はわかった。
「え・・・うゎ!なんだよそれ!」
「・・・?」
俺様の後ろに着いてきているカビ達を指して言った。
・・・その後はトラウマだ。
石を投げられ、暴言を吐かれ続けた。
その時のことは忘れない。忘れられない。
・・・一生。
俺様はゴミ捨て場に潜み、機械という存在を捨ててある本から学んだ。
見よう見真似、そして勘で作り上げ、1つのUFOのような物体ができあがった。
それを駆使し、激戦区であり、唯一俺様が住めそうな谷の頂上を1つ勝ち取った。
そこにカビ達と城を立て、そこで暮らしていた・・・。
数年が過ぎただろうか、少しの好奇心と少しの期待を込め、俺様はもう一度町に降りた。
―――また、拒否された。
そして吹っ切れた。
その後何度も町に降り、悪さを繰り返した。
こんなことをしても何もならない、虚しくなって孤立するだけだとわかっていた。
それでも、続けた。
「・・・馬鹿が」
そんな俺に、輪に加われとコイツは言った。何も知らず、生まれてからずっと幸せなヤツが。
大体コイツがよくても、回りがそうだとは限らない。俺様はずっとアイツ等に悪さを続けてきたのだ。
回りが拒否した時に非難されるのは、連れてきたコイツなのだ。
・・・何を考えているのだろう。俺様は独りで十分の筈だ。
「・・・」
今ならコイツを消せる。
顔を粉々にし、体を隠せばコイツの存在は消えると言っても過言ではない。
それでいいのか?
俺様が求めたのは完勝だ。こんなお情け同然の勝利を勝利と呼んでいいのか?
「くそっ」
今回は・・・見逃してやる・・・。
「ん・・・」
「起きたか」
「バイキンマン・・・。無事でよかった」
にへらと笑うコイツを踏みつけたい。俺様には一生できそうにない笑顔だ。
「・・・次は勝つからな」
「君も頑固だなぁ・・・。それより、今度パン工場にオニギリ―――」
「!?」
二人同時に体が固まった。
理由は言葉では表現しにくい症状だ。
わかりやすく言えば、体が砂になっている。
洞窟内に不気味なラッパの音が響く。
「お前は・・・」
「砂男・・・!?」
「しまった・・・!」
砂漠地帯は砂男のテリトリー。
しかし広大な砂漠で少し争う程度ならバレないと思っていた。
「ふぇ〜ふぇ〜っふぇ〜。何をしているんだぁ〜い?アンパンマンにバイキンマ〜ン」
楽しそうに砂男は喋る。
「どうして・・・わかった」
「あ〜んな爆発起こされちゃ、気づかない方が変だよー」
爆発は当初の計画外の行動だ。大失敗と言っていい。
体の内から砂に変わっていく独特の感覚に、二人は対応できない。
「何をするんだ!」
「ふぇ〜ふぇ〜。お前達が邪魔だから〜ちょーと砂になって固まってもらおうと思ってねぇ〜」
「・・・っち」
バイキンマンの方は既に悟っていた。
この状況を打破する術はないと。
傷つき、疲弊した状態に加え体の半分が砂化している。
いずれ脳にまで砂になり、思考は停止するだろう。
・・・もう、足も動かないのだから。
「オイ、俺様はお前を倒すまで死なないからな。よく覚えておけ」
「バイキンマン・・・」
二人の抵抗はなくなり、体の変化が早くなる。砂男がラッパを吹き続けているからだ。
パンは首から上以外砂になり、黒い男は右肩と顔を除き砂になっている。
その中、黒い男は、砂男にバレないように慎重に、1つの小型機械を放り投げた。
「今回は人頼みだ。しつこいようだが、決着はまだついていないんだからな」
「何をしたの・・・?」
「・・・いずれわかる。わからなきゃ死んでるだけだ」
「?」
黒い男は鈍いパンに腹を立てる。意外に余裕があるものだと、心で少し笑いながら。
「あばよ、アンパンマン」
「・・・えと、またね。バイキンマン」
その言葉を最後に、砂の侵食は二人の体全体に及んだ。
「ふぇ〜〜〜っふぇっふぇ〜〜!」
残った地下洞窟に残るのは、砂男の笑い声だけだった・・・。
明日の闘い
「・・・バイキンマン・・・?」
「・・・驚いたな」
二人・・・という言葉の表し方が適切であるかは誰にもわからないが、何も写らない、ただ暗闇と漆黒を混ぜ合わせたかのような 黒 しか存在しない空間に二人はいる。
お互い相手の姿を目視するのは不可能だ。視覚と言われる機能が働いているかも判らない。
「ボク達砂になったんじゃ・・・」
「厳密には仮死状態の様なものだな。まだ解明されてないが意識パターンの波長が合うことによる―――」
「やだなぁ。そんな難しく考えるのやめようよ」
体があるかも判らないが、頭上から拳を叩きつけたくなる衝動に駆られる片方。
「・・・根拠がないからいいがな・・・! お前はもう少し楽観的な思考を捨てた方が―――」
「ところで固まる寸前に何をしてたの?」
「・・・!」
もし正常な体があれば怒りで体中を震えさせただろう。まともに自分が考えた推理や論理も通用しない馬鹿パンが憎らしいようだ。
「・・・はぁ・・・。アレは遭難用の救命信号みたいなものだ。万が一機械が壊れ、一人で砂漠を抜けられなかった時の保険。カビ達じゃ砂男には勝てんから―――」
「助けを呼んだのなら大丈夫だねっ。少し眠いなぁ」
「・・・・・・・・・・・・・」
「アンパンマン達遅いわねぇ・・・」
「そうだなぁ・・・またバイキンマンに襲われたのか・・・」
二人のパン職人はパンを作る手を止め、椅子に座りながら我が子を想うようにパンを心配する。
今日は流浪のオムスビマンがパン工場に訪れ、自分のオニギリの味を披露してくれるのだ。旅の途中にはいつもオニギリを自作しているコトによる成果、とも言える塩加減などは一般家庭でそう食べれるものではない。決して共食いでもない。
「失礼いたす」
予定時刻通りに重い扉を開いた男。長年流浪を続けたタメ、異常に発達した足の筋肉が服の隙間から見える。愛用の笠を入室と同時にとる。
「実はパン工場の前に―――」
「あぁ、その前に風呂が沸いてるから入ってきてもらえないかしら?」
「服はワシ等で洗っておくよ」
二人は笑顔だが、清潔がモットーの職場で旅歩きの埃をバラまかれるのは少々苦しいものがある。
「あ、はい。いえパン工場の前に―――」
「タオルと石鹸を渡しておくわね。入ったら服を取りに行くから、出たらこの寝巻きを着ておいて」
「それじゃあ、ゆっくりしておいで」
「は、はい・・・」
1つの道の職人というのはこういったコトに厳しい。これが世の常と言えよう。男の気の弱さは決して平均より劣っているわけではない。職人の気迫が、YESしか言わせない凄みがあるのである。
アンパンマンが人の話をあまり聞かないのは製造者の影響があるのかもしれない。
カポーン
「・・・どうもでござる」
「早かったね、こっちに座りなさい」
「寝巻き似合ってるわよ」
清潔になりさえすれば二人は本当に優しい。黒い気迫も既に消えている。男も草色の寝巻きが栄える。
「失礼、宴会の方の開始時間にはまだ余裕があるハズですよね?」
「ええ、今からゆっくり旅の話を聞いてからオニギリを作っても間に合うわ」
「お餅とお茶の準備もできているよ」
「かたじけない」
男が好物であるできたての餅に手を出そうとした時―――
「ジャムおじさァーーん!!」
ドアが乱暴に・・・いや、慌てて開けられた。
「大変なんだ!森が・・・!森が・・・!」
「どうしたんだい?」
このカバ男、名をカバオという。毎回問題が起こるたびにパン工場へ泣きついてくる伝達役兼トラブルメーカー。
「と、とにかく見てよ!」
と、工場の隅に設けられた旧式のテレビを指す。
助手の職人が素早い動きでテレビをつける。
そこには・・・
「「!?」」
ここから10キロも離れていない近場の森が、砂となっているのだ。
美しかった新緑の木々たちは一本残らず砂色へと塗り替えられ、弱弱しく立っている。さしずめ砂の森とでも名づけられそうな風貌である。
常識的に考えればありえない事態だ。
「・・・これはどういうことでござろう」
餅を食べれなかった寂しさはもはやあらず、荒仕事をする顔をしている男。
「わ、わからないよ・・・けど」
[ピィーーガァーーーアアァ!]
男が持っていた何かが音を立てた。
「オムスビマン、なんだいそれは?」
「あ・・・っと忘れていた。先刻ドアの前にこの妙な機械が落ちていたのでござるよ」
っと、怪しげで汚い機械を調理机の上に置く。
一瞬職人二人の顔が強張るが、緊急事態なので仕方ない。
[ざーーー座標ーーー東地区第3オアシスより3キロ先のちーーーかーーーー・・・・ががががが]
多量の砂を含んだタメか、小さな煙を立てて壊れてしまった。
このような精度の機械を作る技術者はこの周辺に一人しかおらず、これはその人物がこんなものをよこす理由は、罠か救命信号だ。そしてこの状況を踏まえて考えてみれば後者の確立が高いと、男は判断した。そもそもパンさえいなければ、あの男が職人達を消すのに一分もかからない。
「そういえば・・・アンパンマン殿が見当たらぬでござるが・・・よもや」
黙って頷く職人達。カバ男は恐怖のためか、ただ泣いている。
「コレは仮説でござるが―――」
バイキンマンはアンパンマンと闘い、何かの形で身動きがとれない程の重傷を二人とも負ってしまったのか、もしくは戦闘中に横槍を入れられ、殺された・・・もしくは砂男に砂人形にされたか・・・と、重々しく自分の意見を冷静に語る。
「砂男か・・たしかにこんな現象を起こせるのはアイツしかいないわね」
「バイキンマンとアンパンマンはこの周辺では異形の者達と渡り合える少ない人材でござった。その二人を同時に砂人形にすることができたのならば、一番手短なここを自分の勢力下に置こうとするのも自然な話。砂男とて、いつ他の怪物に寝首をかかれるかわからぬ身・・・土地は広い程安全も高まるのだから」
「・・・ふむ。備考としては、アンパンマン達は砂人形にされた・・・と言うのが正解だと思うわ。砂男は殺すよりも人形にして鑑賞するのが好きだったハズだもの・・・」
助手の顔つきは男と同じ、荒仕事を扱える人種の物だ。
「・・・あまり良い状況とは言えませんな。アンパンマン殿を復活させるにしても、砂男と闘いながらでは拙者もどこまでやれるか・・・」
砂男は強い。
過去に対峙したことのあるオムスビマンや、職人達もその強さには一歩退いてしまいたいものがある。親方職人であるジャムは、話を聞きながらお茶をすすっている。歳のなせる落ち着きとしかいえない程、ゆるやかな物腰だ。
「大丈夫、アンパンマンの方は私に任せて」
「・・・危険でござるよ」
「いくつか死線はくぐったわ」
そう、この女性はアンパンマンの顔を取り替える作業に特化されている。顔を投擲物のように扱い、今までの顔を落としつつ新しい顔にピッタリはめるのだ。
その理由・・・それは昔彼女が所属していた王国に帰結する。
彼女はとある王国の実行部隊・・・主に重要ポイント等に投擲物を投げつけることから弓等を使った暗殺・・・そういった突撃部隊の補助を行う荒事を専門に扱っていた特殊部隊の出身なのである。
その腕はたしかなものだ。
「・・・ならば何も言いますまい・・・行きましょうか」
「話はまとまったようだね」
老骨ジャムは静かに続ける。
「それじゃあ移動機の準備をするけれど、オムスビマンは自分で走った方が速いようだけど?」
「そうですね、自分は一足先に向かわせてもらいます。えっと、服はどこでござろう」
「あ、煙突の中に干してるわ」
「・・・もう少しまともな所はないのでござろうか?」
「すぐ乾くのよ」
「うぅ」
男が作戦を決めておく。職人側は今から砂漠地帯用のタイヤに交換した後、砂男と闘っているオムスビマンの横を行き、助手が顔を取替え、アンパンマンを蘇生させた後、砂男を倒す・・・。
「では、失礼!」
階段を急ぎ足で昇り、煙突部分に繋がる扉を開き、一瞬で旅装束を身に纏い、窓から外へと男は飛び出していった。
「それじゃあワシ等もとりかかろうか・・・。カバオ君。君はもう帰ってもいいよ」
「は、はい!」
老人は戦場の空気の中では完全な部外者だったカバ男を帰らせた。彼にできることは何もない。
「さて・・・勝てるかどうか・・・」
老人はただ眼を細く、先兵の男を心配する。
共に向かっては同時に砂男と闘うことになる可能性もあるため、単体で行かせる選択が最良なのだが・・・。危険が大きいのは自分ではなく若者達。その歯がゆさは老身に響かせた・・・。
「え・・・これは」
「・・・なんなんだ一体ここはよ・・・」
暗闇の中、突然黒以外の色が射したと思えば、それは自分達が住む現実世界の光景だった。
砂が緑を侵食した光景。
二人はただ呆然としか直視できない。
「そうか・・・俺様達がいなくなったから砂男め・・・調子にのって縄張りを増やそうってか」
「こ、このままじゃどうなっちゃうの?」
「町はまず滅ぶな。町人は全員アイツの趣味の砂人形にされて永遠に砂漠のどこかで鑑賞されるってとこか」
「そんな・・・」
沈むパン。感情で変化しやすい声は切なさが含まれる。思い出すのは自分の生みの親達やよく遊ぶ町人達。
「・・・大丈夫だ。俺様があんな怪物を好きにさせるわけないだろう」
珍しく慰めに入る黒い男。よっぽど珍しかったのか、パンは驚いて少し言葉がでなかった。
謎の光には走っている男も映されているが、それすら眼に入っていない。
「・・・今は砂人形にされちゃってるけどね」
「るっさい」
ただ、駆けた。
拙者はただアンパンマン殿を助けたい。過去に助けられた恩の一部を返すため・・・そしていつも流浪の自分によくしてくれるパン工場の人達を救うため、微力でも自分の力が役立つのならば、迷いは・・・ない、ハズだ。
正直死と隣り合わせの状況は好きではない。ただのんびりとした生き方を選びたくて、流浪人に人生を差し出した。
今日もいろんな町人達や古い付き合いでもあるジャムさんと話すタメに着たと言ってもいい。
戦闘はいつでも残酷だ。予想もしないところでいつも訪れる。
拙者は闘いなぞ好きではないのに。
「・・・着いた」
考えている間に現地である砂漠についた。最短ルートを選んだのだが、思ったより早い到着だ。
途中の砂の森でさえ、今の男の精神状態ではゆっくり感想を述べる余裕はない。
「・・・っく」
砂漠の地面から何か湧いてくる。
砂男の下僕である砂子供達だ。小さいながらも一匹で家一軒を破壊するのも容易な力を秘めている。
「―――ご免!」
腰に挿した刀を引き抜き、男は再度駆ける。
「きぃ!」
男めがけて鋭いパンチを繰り出す。しかしそれは既に残像。目標を失った力は、砂漠の地面を叩き割る。
細かな砂の粒子が即席の崖からサラサラと落ちていく・・・。
「っし!」
空気を肺から吐き出す音と共に、剣を振るう。抜いたハズの腕は既に元の位置に収まっている。
剣筋を見切ると言う考え自体が間違いだと囁くかのような、綺麗な動作だった。
「っきぃ・・・?」
砂子供は一瞬自分の体を把握できなかった。
ゆっくりと上半身と下半身が分離する感覚など通常では一生経験しないものだが、砂であるこの生物は生半可な攻撃ではすぐに傷口が再生する。だから半分にされた程度ではすぐに元通りになる・・・ハズだった。
思考が途絶える寸前に気づいた。砂子供は斬られたのではない。
斬り刻まれたのだ。
次の瞬間には砂子供の原型は欠片もなくなり、細かな砂だけが地に落ちていった。
「・・・次ぃ!」
地面から次々と湧き出る砂子供を前にしても、男は果敢に突撃していった。
「それじゃあ・・・行こうか」
「はい・・・」
老人は愛用のゴーグルをつけ、助手は新しい顔を焼いている。
「・・・発進!」
重い声と同時に、大型走行機は動き始めた。パン工場のガレージを抜け、まっすぐ男が通った道をなぞり始める。
「・・・砂人形を元に戻す方法の確認はとれたかい?」
「はい。やはり資料通り、砂男事態を倒すか、塩分を含んだ水分を与えればいいそうです」
「ふむ・・・塩水は材料庫のを使ってくれ。顔は高温にしてすぐに焼けるようにしておくれ」
「わかりました」
「・・・オムスビマンは大丈夫だろうか・・・若い物に一番危険な役目を負わせるのは苦しいものだ」
「そんなこと言わないで下さい・・・彼も私も、アナタにお世話になったからこそ命を賭けられるんですから」
「ありがとう・・・バタコや、チーズの鎖は解いてくれたかい?」
「もちろん」
チーズとはパン工場で飼っている犬のことだ。様々な生物が言語を理解するこの世界で、なぜか犬だけは喋れない神秘があるのでペットとして飼われていた。戦闘能力も補助もまだ訓練中なので、万が一自分達が戻れない時には逃げられるように、との処置だ。
闘いとはそういうものだ。
「塩水と新しい顔、できました」
「ご苦労。作戦が始まるまでゆっくりしておいておくれ」
「・・・はい」
太陽まで砂塵で覆われた森周辺を見て、自分が今からどれだけ強大な化け物と闘うかを改めて理解し、恐怖を感じる老人であった。
「なんだか・・・凄いことになってるね」
「そうだな。勝算は5分といったとこだな。オニギリ野郎がどこまで持つか・・・」
「だ、大丈夫だよね。きっと」
パンは動揺し始めている。何か不安なことがあればいつでも自ら前へ出て、何もせずに見ているなんて選択を選んだことが無いためだ。歯がゆさだけが彼を包んでいる。
「さぁなー。俺様達が復活すれば勝算は大きい。砂人形にされることでさっきの戦闘での傷は大体止血されているからな」
砂人形になることでの唯一のメリットと言ってもいい。体中を砂にされることによって血液の流れすら完全に凝固され、結果的には完璧な止血といったことになる。
そんな危険を孕んででも砂人形のまま置いておく砂男の趣味は病的と言っても不適切ではないだろう。
光の中ではただ男が砂子供をなぎ払いつつ、自分達の洞窟へと前進している。
遅れてジャム達も砂漠へと入り始めた。
「神のみぞ知る、だな・・・」
重々しく現状に合った言葉を出す。
「なにそれ?」
「・・・黙って見てろ」
「っはぁ―――ッハァ―――!」
男は確実に疲弊していった。
それは目的地である大穴が空いた洞窟の目の前で、だ。
理由は簡単。
極限の集中力を振り絞りつつ可能な限りの最高速度で前に進むのは常人では数分とも持たない行いだ。
それを数十分以上も一切手を緩めずにここまで着たのは流石を通り越す仕事だ。砂子供も数が増えてきたが、それでもこのままなら洞窟内まで突っ切ることができたろう。
それができないのも、男は十分理解していた。
「〜〜〜♪」
「やはり―――来たかッ!!」
「ふぇ〜〜〜っふぇ〜っふぇ。順調に家を増築しているんだぁ〜邪魔はしないで欲しいなぁ〜」
圧倒的な大きさを見せつけ、砂塵の隙間から僅かに射す逆光を背に、砂男は流浪人の前に現れた。
隙なぞどこにあろう。無理をして脇を通り過ぎようとすれば、想像できるビジョンは死しか見えない。
けれども男は止まれない。止まれば50を越える砂子供達の餌食になるからだ。
だから
「ハァッッッッ!!」
―――男は跳んだ
旅で異常発達した足に鞭を打ち、手短な砂子供を踏み台にして砂男の顔面近くまで跳躍したのだ。
いくら砂男と言えども、顔面を斬り刻まれれば再生に時間がかかってしまう。
しかし、必死な男の策を前にしても、砂男は冷静だ。
「っふん!」
金属と金属がぶつかり合う高音を砂漠に響かせた。敵を砂人形にする際に使用するラッパは、同時に砂男の矛でもある。
何故ココまで自分の力が通じぬのか。
何故ココまで強大な化け物が存在するのか。
自分の力量を一撃で理解してしまう。やはりコイツは自分より圧倒的に強いと。泣いてしまいたい恐怖を押し殺し、着地地点にいる砂子供を一瞬でこま切れにしながら、時間を稼ぐタメだけに再度砂男に挑戦し続けた・・・。
「らぁあああぁああ!!!」
「―――見えた!」
老骨は叫ぶ。
「準備、できています」
専用のゴーグルを顔に纏い、右腕には新しい顔、そして腰には大量にくくりつけられたボトル。中にはもちろん塩水。
「ふぇ〜っふぇ〜!そろそろ来ると思ったよぉ〜」
人間では遠目で豆粒にしか確認できない距離を、戦闘中の怪物は容易に気づく。
少しずつ近づいて気づいたのは、ボロボロの男が攻撃の手を一切緩めずに挑んでいること。
「・・・バタコ。手はず通り行くよ」
「わかりました」
二人の顔が強張る。リスクが非常に高いからだ。しかし怪物の裏をとるにはコレしかなかった。
バタコは走行機の上から外に出る。飛び降りるタイミングを打ち合わせ通りにするために。
「オムスビマンさーん!避けてー!」
もはや返事を出す気力もない男は、本能のまま横へと退避する。
「ふぇ〜〜〜ふっぇ〜〜〜な〜〜にを・・・?!」
怪物・・・砂男は驚いた。走行機は真っ直ぐ自分の方向へ向かってくるのだ。緊急回避という本能は怪物にはない。今までそんなことをしてでも避けなければいけないほどの大型を相手にしたことはなかったタメだ。
その焦りが、戦場で最も致命的な一瞬の油断を生み出したのだ。
「食らえ!砂男ぉおおぉ!」
ただ老骨は叫ぶ。臆病な自分を奮い立たせるために。
ぶつかる寸前に助手は穴へと飛び降りた・・・。
「ふ〜〜〜ざけ〜〜〜るなぁ〜〜〜!」
既に直撃を避けられない砂男は、渾身の力を地面に叩きつけた。
そして走行機の直撃を一身に受ける。
「な―――に―――」
その衝撃は大きな物だった。
それは砂男によって弱められた地盤を破壊する程に。近くの大穴によりただでさえ不安定だったジャム達の足場は、砂男の一撃と走行機との激突により、更に大きな大穴を生み、その場の全員を地下へと誘ったのだ。
「ぁ・・・・ぐ」
助手は意識を一瞬だけ朦朧とさせた。着地と同時にそこそこの大きさの岩盤を背に受けたからだ。吐血をする程の傷も今の彼女には関係ない。
作戦を成功させねば死ぬだけなのだから。傷を負いつつもリアリストになれる精神力こそが彼女の過去の戦績によるたまものである。
「急がない・・・っと!」
持続性こそないものの、瞬間的なスピードで言えば男を越えるモノを彼女は持っている。実行部隊で最も必要な要素の1つだったからだ。
懸命に視界を広げつつ、二人を探す。
索敵も得意分野だった彼女にとって砂人形を見つけるのにかかった時間はほとんどない。今最も脅えるのは砂男が自分を発見することだ。
恐怖を振り払うために速度を上げて走った。
「・・・っく。あ〜いつらめぇ〜よくもよくも・・・! ん?」
怒りを放ちつつ最初に眼に止まったのは・・・・とても素早く動く助手の姿だった。
そしてその先には―――
「ふぇっふぇっふぇ・・・」
「砂男ぉぉ!!」
「ん〜?」
突如に現れた男の一閃さえ軽く止めてしまう怪物。手負いの彼を振り払い、助手を追うこともできたが、あえてそれをしなかった。
少しずつ助手の目的地に近づくだけで、止める気は砂男には全くなかった。
「―――おかしい」
攻撃を緩めずに男は思った。
この怪物の実力ならば速度の落ちた自分の攻撃を払いのけ、視界の隅で走っている彼女を追うことができるハズだ。なぜそれをしない?
けれどそれを考えつつも自分が攻撃を緩めるわけにはいかない。本気で奴が気づいてない奇跡的可能性すらも縋ってしまうからだ。
「くそぉぉぉお!!」
どうしようもない怒りを刀に乗せ、男は突撃し続けた。
「いける―――」
この距離なら間に合う・・・。向こうの方でオムスビマンさんが砂男を止めてくれているから。
これなら体力も持つし―――大丈夫!
残り約50M・・・・。急がなきゃ。
「ふぇっふぇぇぇ〜〜〜〜行けぇぇぇ!子供達よ〜!」
突然砂男が洞窟中に響く声で叫んだ。子供・・・・?
まさか。
「っきぃ!」
「っきぃ!」
「っきぃ!」
目の前に三匹、そして洞窟中にも次々と現れている・・・!?
「・・・大丈夫―――!」
死の覚悟を背に、砂子供の手前で私は速度を最高速度にする。
「らぁあぁぁああああ!」
砂の中から突然大型機械が飛び出し、先端部分から巨大な水玉を発射し、助手の道を遮る砂子供を泥の塊に変える。
「―――ありがとう!ジャムおじさん!」
活路を開いた助手は泥の脇を通り、迅速に砂人形の二人に全ての塩水をふりかける。
「ふっぇっふぇぇぇぇ〜〜〜〜っふぇえぇえ〜〜〜〜!!!」
しかし一番嬉しそうなのはピンチになる筈の砂男だった。
「え・・・!?」
塩水をふりかけた砂人形は二つとも粉々に砕けてしまった。
「どう・・・して」
その場に居る者達は固まった。戦慄とはこのような感情であろう。現実を理解する恐怖が助手の思考を一瞬止めた。
その隙を逃がさないと言うかのように、砕けた地面から何かが飛び出る。
「危ないッ!バタコさん!」
「え・・・?」
一瞬だった。潜んでいた砂子供が助手の抱えている新しい顔を破壊するのは。
「ふ〜ん」
「ぐ・・・っあ!」
砂男によって助手の目の前へと男は飛ばされた。受身と同時に砂子供を斬り刻んだのは本能的なものだ。自分達の希望を砕いた敵を、怒りと言う感情によっていつもより多く刻んだ。
「どういうことだ!」
「それはね〜ダミーなんだよ〜ふっぇふぇっふぇっふぇっふぇ!」
「な・・・」
「急いで作った物だけど〜巧くできているだろぉ〜? 本物はその下に埋まっているのさ〜」
「そんな・・・!」
助手は慌ててその下を掘ってみる。
・・・すぐに顔がボロボロのアンパンマンと、バイキンマンの頭が出てきた。
こちらが本物だとはすぐにわかった。余裕さえあれば先程の砂人形が偽者だともわかっただろう。
極限状態での焦りが助手の思考回路を鈍らせたのだ。
「そ〜し〜〜て〜あの厄介な機械にはまだ塩水があるだろう。それを補充させる馬鹿はし〜なーい」
こちらに走っている走行機を、砂男が襲いかかる。
「後は子供達にやられておくれぇ〜っふえぇ〜〜〜っふぇっぇ〜〜」
「バイキンマン・・・・」
「・・・砂男め、馬鹿だと思っていたが、意外に頭も回ったんだな」
「このままじゃ―――!」
「うっさい!」
「う・・・」
黒い空間の中、絶望感だけが場を支配していく。
「・・・まだ方法はある」
「え・・・?」
「それにオムスビ野郎が気づくかどうかだ」
チェックメイト
拙者はそう思った。
既に洞窟内には200から300匹以上の砂子供が溢れている。
そしてそれを助手を守りながら防ぎ続けるのは不可能だ。防いだ所で増援もこない。
ジャムも簡単には負けないだろうが、それも時間の問題。砂男の勝ちと言っていい。
「そんな・・・そんな・・・」
「バタコさん・・・」
彼女も理解したようだ。この状況を。
「拙者・・・やはり残念でござるな・・・」
少しずつこちらに迫って来る膨大な敵達。死のタイムリミットととってもいい。
今までの旅や、道中に出会った人達、嫌いな戦闘の日々まで頭に再生されていく。
「せめて・・・宴会だけでもしたかったでござるな・・・」
「・・・」
宴会で拙者のオニギリを皆披露して・・・
「・・・オニギリ?」
「ぐぁ!」
ジャムの誇る大型の機械であるが、水の弾を撃ち尽くしてしまった直後・・・ついに破壊寸前のダメージと共に飛ばされ、壁と激突して黒煙を立てて停止してしまった。
横に倒れた大型機は走行機能すら既に死んでいる。
「ふぇ〜〜っふぇっふぇ・・・意外にもったがぁ〜それもここまでだぁ〜」
「まだだ!!」
「ふぇ〜?」
流浪人は叫んだ。
「オニギリを作る時に、大事なのはなんだと思う砂男?」
「・・・な〜にが言いたい」
「大事なのは塩加減だ。強くかけすぎれば舌に刺激がいきすぎるし、少量にすれば味覚の鋭いものにしか味がわからなくなってしまう。拙者がいつも気にしていることだ。
そして拙者は自前の塩を常に携帯している」
「それがどーした!水が無ければただの――――!?」
「気づいたか。考えれば簡単なことでござった」
男は右手に刀を持ち、迷いのない動作で自分の左腕を刻んだ。
「ッグぅ!」
赤い血液がバイキンマンの砂人形の上に滴る。
「や〜めろー!!」
「まだ、終わりではござらん」
手持ちの塩を全て投げつけた。
大量の水分である血液、そして多量の純塩。
条件をクリアするには十分な量だった。
煙が立つ。
「ハーーーーッハッハッハ!!!よくやったぞオムスビ野郎!!!!」
埋まっていた砂を吹き飛ばし、黒い男は蘇った。
「力を貸して―――」
「うるせぇ! 勝手にしやがれ!」
黒い男は駆けた。
いつも機械を駆使しているのには理由がある。基本的な能力はパンと大差のない黒い男だが、あいにくと飛行能力に恵まれておらず、いつも浮遊機械によってパンと戦っていた。
「ふぇ〜!? バイキンマ―――」
「うるさぁーい!!」
砂男の下部分へと拳を振り落とす。
「ガーーー!?」
的確に命中した点は、砂にダイナマイトを爆破させたような擬似爆発が走る。
単純な筋力によるものだ。
「・・・無茶苦茶な男だ」
ふらつく男だが、言葉とは裏腹に安心している。黒い男の選択はこの状況で最も合理的な方法であるのだ。まるで事前に目視し、復活してすぐに行動できる様に作戦を練っていたかのような。
もはや現存戦力で対抗できる者がいない状況だったが、バイキンマンが現れて話が変わった。
「・・・ッ」
その事をすぐに理解した助手は、もはや動けない走行機へと走り出す。男も砂子供のガードのために共に駆ける。少し進むだけでも砂子供3匹と遭遇する。もはや完全に囲まれつつある。
が
そう、バイキンマンが砂男を止めてくれるのならばその時間にジャムと助手によって新しい顔を作り直し、その間の護衛を男がすれば、活路は開ける。
この状況にアンパンマンは復活すれば、砂男とて成す術はない。助手は走行機の中へと入って行く。
幸運なのは後ろが壁であること。満身創痍の男が守るべきはは1面だけで済むのだ。
「例えこの命果てようとも―――恩人達には指一本触れさせはしない!!」
男は命を賭けた。
「ッハ!遅いんだよ!」
「ぐぅぅ〜〜!」
恐ろしいまでの速度でなぎ払った矛での攻撃すら、日頃それを越える拳速を誇るアンパンマンと対峙している黒い男にとっては遅すぎた。ムダの無い動作でしゃがみ、すぐに攻撃に転じる。
「オラオラオラ!俺様の裏をかいたんじゃなかったのかぁー!?」
「がぁぁああ!!」
絶え間無き拳のラッシュは止まらない。動けなかった時の苦しさをも発散させる勢いで砂男の体を削っていく。
本来一対一の闘いなら黒い男は十分に相手を凌駕する実力を秘めているからだ。
本来なら、だが。
「っぐ―――!? 思ったより―――早いか―――」
黒い男は一旦距離をとった。
「・・・ッッ?」
「っち」
「ふぇ〜〜〜っふぇ。そーうかぁ〜お前はまだアンパンマンとの傷が残っていたんだったねぇい〜」
「・・・」
黙って臨戦態勢を構える。
けれど砂男の言葉は正しい。砂人形になることで止血は完全にできた。しかし体に残った疲労と内臓器官へのダメージは止血だけで完治するレベルではない。
残念ながら、まだ怪物側の有利は変わらない。
「これくらい丁度いいハンデだよ・・・俺様にとっちゃなぁ!」
それほど高性能ではない自らの羽をバネにし、再度立ち向かった。
「バタコ、どうだい?」
「大丈夫です―――これなら焼き上げる時間抜きで2分以内にはできます。塩水は既に準備完了」
今までにない速さで新しい顔・・・いや、希望とも言えよう。それを作る。
手の動きはもはや素人目では何をしているかすらわからないだろう。いつもよりもずっとスピィーディに、かつ丁寧に作り上げていく。
死を隣り合わせに二人の脳内には恐ろしい濃度の脳内麻薬が分泌され、結果的に通常の職人を越える精度で仕事を進めることができるのだ。
「基盤完成、後のは私だけでもできます」
「頼むよ・・・こっちを何とかしないとね」
壁に激突した際に大部分に深刻なダメージを負わされたものの、一度程度なら焼くことができるようだった。
しかし、呑気に待っている時間はない。
「・・・頼むぞ」
先程まで走行機を走らせていた動力源・・・多量の高級木炭だ。それを全てかき集め、かつ戦闘用の火炎放射機を用いて点火させる。
常人なら笑い話にしかならない方法であるが、死を目の前にした二人は至って真面目である。
笑ってしまいそうになるこの術は、成功すれば一瞬で顔を焼き上げることができるからだ。
「顔、できました!」
「よし、点火を頼むよ」
「―――!? いえジャムオジサンが点火してください!」
「バタコ」
「う・・・」
点火作業はリスクが少ない。パンを持ち、ギリギリのタイミングで火から遠ざける恐ろしい手作業には最高の危険が身に纏わりつく。
一歩間違えれば、新しい顔と共に、自分の手が燃えカスになってしまう危険が高い。
「・・・やらせておくれ。若者達ばかりに危険な仕事をさせたくないんだ」
「ジャムおじさん・・・」
助手はそれ以上何も言わず、火炎放射機の安全装置を外す。
「ありがとうよ」
助手はゴーグルをつけるが、親方職人はつけない。極限まで見極めなければいけない作業に余計な物をつければ誤差が生まれるからだ。当然熱風は老人の眼を蝕むだろう。
自分の眼よりも、今は成功率を重視する。迷いはないようだ。
「―――行きます!」
「―――!」
下から高密度の炎が昇ってくる。少しずつその動きがスローモーションになっていく。火が自作のパンへ焼きを入れる。標準の温度を大きく越えた炎は一瞬で下部分を焼き上げた。
だが
本来パンは時間をかけてゆっくりと全体に火を通すものだ。
一面だけを焼いて完成になるわけがない。
「―――」
パン職人としては神のレベルに当てはまるジャム。その手の動きは既に人間を越えたと言ってもいい奇跡だった。
炎に合わせて少しずつパンをずらし、可能な限り全体に火を通す。既に手が焦げ始めているが、老人に迷いはない。
全ては今を生き残るために
全ては若者達に生き延びてもらうために
老骨もまた、命を賭けていた。
「がぁ―――まだ――――だぁぁあ!」
もう何十匹目かもわからぬが、男はまた一匹突進してきた敵を刻んだ。
疲弊した体、刃こぼれの目立つ刀。
その中で眼だけは砕けぬ闘争心で満たされていた。背水の陣とはこのことかもしれない。
ここは通さないと男は言った。
だから何がなんでも守りきる・・・のではない。
既に男の思考回路の中で自分が倒れ、砂子供達が走行機へ襲いかかる未来は微塵もない。どんな手を使おうとも、最後の防衛線であり、一人でも欠ければ全滅するこの状況で自分が馬鹿をするわけにはいかないのだ。
故に男の意志は固く、肉体の限界を超えてでも活動できるのだ。
「オムスビマンさん!」
「―――!?」
「やっとできたわ!」
「おぉ・・・。バイキンマーン!!」
「わかってらー!」
遠くで闘っていた黒い男を呼ぶ。男が助手を守りつつアンパンマンの下へ行くには眼下に広がる砂子供と砂男を、走行機を守りながら相手をしてもらうしか方法がないのだ。
そして走行機の中では、黒く焦がした両手を助手が用意した水に漬け、両目の水分が飛んでしまったので包帯を巻きつけた老人が崩れていた。
ただし、その顔には微笑みがある。
「なめるなぁ〜〜!」
「ッケ!俺様に勝てるとでも―――思っているのかぁぁ!!」
再三の激突と同時に、助手の護衛をしながら男は駆ける。勝利を掴むために。
しかし黒い男とて満身創痍だ。強がっているものの常人なら数ヶ月は入院するべき傷を内に抱えている。
それでもついでと言わんばかりに砂子供を破壊しつつ、砂男と渡り合えるのは拍手すら送りたくなるほどの雄姿だ。
「急ぎましょう!」
「はい、バタコさん!」
もはや疲労を通り越して体は破壊されていると言っていい。酷使した神経は悲鳴をあげ、筋肉組織のほとんどは打撲とフル活動によってボロボロだ。左腕は壊死していてもおかしくない出欠が続いている。
それでも走る。
泣き叫ぶ右腕を振るい、砂子供をなぎ払いつつ。
「アレよ!」
「早く・・・早く!!」
「!?」
「ふぇ〜〜〜〜〜〜〜!っふぇぇぇぇ!!!!忌々しいバイキンマンめ!やぁぁっと限界がきたようだねぇぇぇい!」
「ふざけ・・・るな。俺様がこの程度で―――ぐ!?」
喉から湧き出る熱く、赤い液体が止まらない。意志とは関係のない純粋な体の崩壊。元々近づいていた危険信号の足音は、無茶な相手達と無茶な闘いで全速疾走でツケを払いにきた。
体は既にマトモにすら動かない。歩くことでも今の彼には失神してしまいそうな激痛なのだ。
「それじゃあ、さよぉ〜〜〜ならぁ!!」
「ちく――――しょ―――」
先程までは楽に避けれた攻撃は、確実な死をまといつつゆっくり・・・かつ素早く黒い男の顔面を飛ばさんと迫り来る。
それは本当に、簡単で一瞬のことだった。
「あ――――がぱぁ?」
何かが砂男の腹に巨大な穴をあけている。
「待たせて・・・ごめんね」
「馬鹿パンが、遅いんだよ」
皮肉交じりに黒い男は笑う。ふわりとその前に降り立ったのは一人しかいない。
「大丈夫、すぐ終わらせるから」
「っへ」
「なにを言っている〜!そして何をするんだぁ〜!」
狂ったように怪物は叫ぶ。
「本気をみせてやるぅぅうう!!」
洞窟中の砂子供が少しずつ砂男に吸収されていく。
「・・・君はもう許さない。罪もない木々達を砂に替え、ボクの大事なみんなを傷つけた・・・!絶対に、許さない!!」
日頃甘いパンは、怒りを一心にまた突撃していく。
「やったでござるよ・・・」
「そう・・・ね」
アンパンマンを復活させた後、迫り来る砂子供を最後の力を振り絞って相手にしていた二人。
砂男が吸収したおかげでようやく一息つくことができた。しかし遠目で見てみれば、黒い男に削られた部分も完全に消え、ビル並の大きさになった化け物が見える。
まだ終わりではないのだと、悲しい実感が湧いた。
「死ねぇぇぇえ〜〜〜!!」
「あぁぁぁああぁあ!!」
怒号と共に怪物の右ストレートをかわし、ビル並の体を壊していく。砂であり、些細な攻撃を無力化する砂男でも吹き飛ばされた部分までは再生できない。
少しずつ、確実に砂男の体は減っていく。
「君はどうして住処でじっとしていられなかったんだ!?」
「っは〜ん!仲間達を増やしたいからに決まってるじゃないかぁぁ〜!!」
「仲間・・・?」
「お前も他の奴らが余計な事をしなければ仲間になれたと言うのにぃ〜」
「ま、まさか・・・」
砂男に仲間と言われる味方は1つだけだ。
そう、それは砂子供。そして先程の言葉から導かれる答えは―――
「砂子供達は元は人間だったのか!?」
「ふぇ〜〜ふぇ。そ〜うさぁ〜!だってみんなみんな仲間になってくれなかったんだよぉぉ〜」
「・・・ふざける―――なぁ!!!」
「っが・・・!」
巨体はまた確実に減らされた。気合と共に打ち出された拳は、再度腹に大きな穴を開け、防ごうとした両腕すらもぎ取る。
体の面積を減らして再生するも、大きな消耗であろう。
「どうして―――どうして普通の方法を選べなかったんだ―――!?」
「そんなこと・・・できるわけがないじゃないかぁ〜〜〜!」
「なぜ!?」
今まで完全な敵だと判断していたパンは、解答が判らぬ故に迷いが生まれる。
「お前にはわからんよ、アンパンマン」
「君は・・・」
「おぉ〜〜わかってくれるのかぁ〜〜〜い?」
当初対戦していた際に使っていた愛用の浮遊機体。既に片腕はもぎ取られているが、問題なく一人と一体の後ろにいつの間にか浮いていた。
「異能者たる力を持つ俺達は、一般人とは決定的な格差が生まれる。一般人との違いは自分でもわかるだろ?恐ろしいまでの違いがな。お前はジャムという渡り橋があったからこそ皆と仲良くできるに過ぎないのさ。実際は、自分の平穏を邪魔しそうな怪しい者としてしか人は見てくれない」
「そ、そんな・・・」
「そうだ〜よー!それが言いたかったんだぁ〜〜。君も実は仲間だったんだねぇ〜〜〜」
黒い男は黙って、残ったハンドで中に水が入った銃を構える。
「けどな馬鹿パン」
「え・・・?」
「どんな経緯があろうとも、コイツがしでかしたことは消えない。同情なんて成分が混じろうとも・・・起こした事には責任をとる。
それが、現存する全ての生物共通の責任だ。コイツを放っておけばどうなるかは理解しているハズだ」
「・・・・・・わかった」
「ふえ?っふえ〜!?」
「ならいい。俺様がフォローしてやる―――やるぞ」
「うん―――!」
黒い男は、パンが でも だからって 等の言葉を口走れば銃をパンに撃ち、自分で砂男を倒していただろう。
浮遊機械は戦闘地から遠くへあり、誰かにとりに行かせる余裕も、直接とる時間もなかったが、パンが砂男と闘っている時間を使えば回収することが可能になった。
黒い男が伝えたかったのはただ決定的で現実的なリアル。
今は甘い考えを砂男に向けることはできない。それは十分パンにも伝わったようだ。
「そんなわけだ・・・悪いな」
「そ、そんな〜!?ちょっと暴れたくらいで―――」
「・・・ごめん砂男、ボク以外の人を傷つけ、森すら破壊の危機に追いやった君をボク一人で許すわけにはいかない」
「や、やめてくれぇぇぇぇ〜〜!」
「力を溜めてろ。くたばれ、砂男。相手が悪かったな」
浮遊機械による突撃により、またも腹に大穴をこじ開け、更に修復する前に水を体中に撃ち込む。
「あぁぁあぁああぁぁあぁぁあんんんんん!!!!」
「嫌だぁぁ〜〜!もっと!もっと仲間ぁぁぁ〜〜〜!」
「馬鹿が、仲間とやらは我が身可愛さに吸収しておいて」
「嫌だ!!!嫌だ!!!」
この場に居る全ての者がその一瞬に活目する。この闘いを終わらせてくれる一撃に。
パンはその場でピタリと止まり、一瞬に全てを込めるつもりだ。
「終わらせろ、馬鹿パン」
「ぬぁわあぁあ〜〜〜!?」
「パァァァァァァァぁぁぁぁァァッァアァンチィィィィぃィィィィィィ!!!!!!!!!」
「い、嫌だぁ―――
―――なんで、なんで―――不公平だぁ〜―――が・・・!」
既に体中が水で固められ、砕かれればもう再生はできない。そしてパンの大地が震えんばかりの全力・・・砂男という存在は消えるのだ。
「それでは・・・始めようか・・・」
「はい・・・」
「「作戦成功、おめでとーーー!!」」
同時に人数全員が持っていたクラッカーも炸裂し、パン工場前は一瞬で活気に包まれる。
「いやぁ〜今回はどうなってしまうかと思いましたよぉー」
「ほんとほんと!もう泣きっぱなしだったんだな!」
「怖かったよねー」
学校の一同はそれぞれ感想を述べる。他の町人達も安堵の息と共に、今まで食べたこともない程美味なオニギリを食べる。
そう、激闘により、本来の開始時間とは大幅に遅れてしまったものの、なんとか日が傾く前には開くことができたのだ。
左腕に包帯を巻き、いたる部分に絆創膏の張ってある男や、両手に手袋をつけることにより傷を隠し、いつも通り振舞うジャム・・・そして比較的重傷の少なかった助手もオニギリを食べている。
皆、無理をしてでもこの会を開きたかった。
生き残った実感を味わいたいから。
皆は狂いそうなくらいの幸福感に包まれていた。悲観するほど苦しい状況を乗り切り、皆と過ごせる時間をただ愛する。
自分の命を感じ、他人の命も感じる。
それはなんと贅沢なことなんだろうか・・・と、戦闘メンバー達は噛み締めた。
「ジャムさん・・・拙者は生き残れて本当によかったと、思えるでござる」
「ワシもじゃよ・・・。帰ってこれたんだね・・・」
「ほんっと、もうダメかと思っちゃいましたわっ」
「たしかに・・・。はて?そういえばアンパンマン殿はどこに?」
「ふふっ。大体想像はつくよ」
「そうね・・・」
「・・・あぁ!なるほど」
「私たちも、今を楽しみましょう」
「ええ!」
闘いは終わり、戦士達は休息につく。また激戦というなの運命が彼らを襲うかもしれないが、生き残った皆は今に感動せずにはいられない。
ただ笑っていたいと思っているようだ。
激戦は終わったのだから・・・
「ふぉっふぉっふぉ・・・一見落着だの・・・」
それを見ていたのは黒い男の祖先、バイキン仙人と呼ばれる賢者だ。俗世を離れた彼にとって、どう転ぼうとも関係ないハズだったが、つい気まぐれでパン達に現世のビジョンを見せていたのだ。
しかしそれは誰も知らないお話。物語には誰も知らない真実があるものだ。
賢者は静かに、薄く透明に消えていった・・・。
「・・・まだ迷ってたのか」
「うん・・・やっぱりちょっとね」
「そういう考えが甘いんだ。自分でもしっかり決めたことだろう。ならグジグジ悩むな」
「そうなんだけど・・・」
「〜〜〜」
黒い男はため息吐いた。身体がまだ重いので木に座りながら体重を預けている。
ここは深緑の木々達の日陰だ。
「・・・世の中は等価交換だ。砂男を受け入れられなかった一般人達は、代償として今回みたいな仕打ちを受けた。そしてそんなコトをしでかした砂男はそれ相応の報いを受けた。それだけだ」
「そんな喧嘩みたいな・・・片方がやめなければそんなのがずっと―――」
「やめたら死ぬだけだ。大事な仲間君達と一緒にな」
「う・・・」
「―――線決めはいつでもしておけ、お前の甘さで死ぬのはお前だけじゃないんだからな、馬鹿パン」
「・・・わかった・・・」
「お前のその甘さは一生変わりそうにないな・・・」
黒い男はため息を吐いた。
「えへへ・・・そういえばどうしてここに居るの?」
「別に・・・あの体で本当にパーティなんざするのか見にきただけだ」
たしかに全員生きてはいるが、ボロボロである。よくここまで盛大に開けたものだと感心できる。視界の端に確認できる集団の生命力には驚かされる。主に職人二人と男だが。
「そっか・・・それじゃ」
「ん?」
座っている黒い男の目の前にはオニギリ。もう片手には自分用のも見える。
「一緒に食べようよっ」
「・・・馬鹿が」
「だめかな?」
「俺様は疲れているから動きたくない。食いたいならそこで勝手に食っとけ」
「・・・うんっ」
・・・本当に甘い奴だよ、お前は・・・。
だが、勝つまでは挑み続けるからな。一緒に飯なんざ食うのは今だけだ。
・・・今だけは、許してやるよ。
無数の砂粒のせいで視界は悪い。
そこを並の車をゆうに越えるスピードで低空飛行する影が1つ。
「ック!バイキンマン!どこにいるんだ!?」
自分の顔に多量の砂が当たり、少し苦しげにパンは叫んだ。
「・・・食らえ!!」
「―――」
数秒後に通り過ぎるハズだった砂地から、黒い物体が突如に立ち塞がる。
パンは驚いた。人で例えるならば100M走を走っていれば、いきなり目の前に敵が現れ、襲ってくるのだ。歴戦の経験がなければ、動けずに硬直いただろう。
それを感覚のみで体の一部を地に接触させながら右下にそれた選択は流石と言っていい。
「っちぃ。大人しくやられな、アンパンマン!」
UFO状の謎めいた機械に乗った黒い人のような生物が叫ぶ。
「・・・もうやめるんだ! 君と戦う理由は僕にはない」
「うる―――さい!!」
前座に紫のアームがパンに掴みかかり、避けるであろう場所に事前にミサイルを打ち込む。1秒にも満たない行動だ。スムーズな動作に被弾を避けることはできなかった。
「っう!」
赤い服の右脇腹部分に焦げ後が残る。着弾、爆破の寸前に体をスピンさせ、直撃を避けたのも経験のなせる技としか言いようがない。
「お前はいつもいつも俺様に勝ちやがる。そして止めを刺さずに去って行く!気絶やぶっ飛ばすくらいじゃまた襲われるとわかっていてなぁ!」
攻撃は続く。アームの左手には上空の少しだけ見える太陽光により、黒光りする銃だ。右手ではハンドを駆使し、追撃している。以前までの闘いでは銃は2丁だったが、パンの驚異的動体視力を考慮し、今回は銃を一丁だけ使っているのだ。
「君だってみんなと同じのハズなんだ!ただ普通に笑って、遊んで―――」
右のアームを引きちぎりながら、真摯な思いから言葉を繋げる。
「うるさァーい!!!」
銃を全弾撃ちつくし、投げつけた空銃は小規模な爆発を起こし、パンの視界を曇らせる。
「バイキンマン!」
願うように問いかけるが、黒煙が晴れた先には対戦者はおらず、茶色の砂塵だけが舞っている。
「・・・?」
辺りを見回すが、何もない。
「っつ・・・」
僅かに傷ついた部分が傷む。
一度下に下りて荒れた呼吸を正そうとパンは考える。
宙に浮くというのは意外に体力を使う行動なのだ。
「来い!!!」
「!?」
その選択は間違いだった。
「ァァァアアアァアア!!!」
足元に軽い熱を感じた直後。
砂の地面は爆破され、パンは地下へと落ちていった・・・。
怖い怖い怖い。
俺様は何を脅えているのだろうか。
いつものように勝手な振る舞いを行い、非難を受けながら孤立することを心の奥で望んでいたハズだ。
けれど
「待つんだバイキンマン!」
アイツが現れた。
暴力という行為でのさばっていた俺様を、同じ暴力を振るい、倒した。
最初はただ悔しかった。
意味が中々理解できなかった。
ヤツの暴力にはどこか清々しいものを感じてしまう。俺様のとは違う、何かが違う清々しさがある。
それがわからなくて、アイツの行く先で悪さを繰り返す。
何度かは追い詰めた。
相手が死んでもおかしくないような方法を選んだタメだ。
けれど最後に負けているのは俺様であり、アイツはいつも自分を殺そうとした相手に止めをささず、去って行く。
たまらなく悔しかった。
さらに俺は今も原因のわからない恐怖を内包している。
「くらえぇえぇ!!!」
「っやめるんだ!」
何日も何日も徹夜し、数ヶ月がかりで作り上げた土竜をモチーフにした兵器。これが暴れればそこらの町は数時間で壊滅させるだけの破壊力をつけた。顔面部分のドリルは一秒間に最高速度で20回転する。掘削機を参考にし、完成させた。
全部アイツを倒すために。
ただ、それだけのタメに。
「ッゥグア―――!!!」
「くだばれ!アンパンマァーン!!」
地面に落下した直後、兵器を突撃させて正面衝突の形に持っていった。何度もシュミレートした結果のリアル。
誰も知らない城の地下室で毎晩描いていたもの。
今度こそ勝ちたいから。
目の前の宿敵は大型ドリルを真正面から受け、苦しい表情だ。背中はこの地下洞窟の端になるため、逃げ道はない。
最後の問題
「君はどうして―――素直になれないんだぁぁあ!!!」
コイツが使う奥の手。何度も何度もこのシンプルな技のせいで地面を舐める結果になった。
まずい砂の味も忘れられないが、いつも自分がピンチになるまで使わないコイツに腹を立てた。
「−−−く−−−ぅ」
衝撃も計算していたが、機械内部の自分の体がここまで影響を受けるとは思わなかった。
けれど、瞬間破壊力の拳に対してこちらは持続性の高いドリルだ。
この一瞬さえ乗り切れば―――勝てる
「うおおぁぁあああぁ!!!」
初回の衝撃を乗り切ったが、コイツは更に渾身の力を込めてまだ威力を上げてくる。もうすぐこの兵器の最大威力を上回ってしまう。
「どうして・・・君はァアぁああぁ!!」
「うるさぁあぁあぁぁあい!!」
操作するレバーに力を込める。
何度このやり取りを繰り返しただろうか。
「っくぁぁぁ!」
「・・・っ」
ついにパンチ力が弱まる。一度崩した体勢は簡単には戻らない。
つまり、勝った。
しかし
コイツの叫び声で何故俺様が動揺しなければならないんだ。
――――そんな所にいないで、一緒に遊ぼうよ―――
・・・くそぉ!
不意に脳裏に浮かんだ言葉。雑念が混じったことでレバーに込める力が弱まった。
メキメキギガァ
「!?」
「ばいきんまぁぁぁん!!!」
ついに俺様の兵器を上回った。
・・・ふざけるな。
ガガッガガガメキィィィ
またお前は俺様を越えるのか。
ガガガアァァァアギギギガァ!
お前はいつもいつも、いつもいつもいつも!!!
ふざけるな!
頭で考える前に、脱出ボタンを押す。
同時に、自爆ボタンも。
「な!?」
兵器は一瞬だけ内部動力が燃える発光を見せ、熱反応に変わる。
このパターンは想定外だったので、俺様まで爆破に巻き込まれる。
ここで一旦思考は止まった。
どうして君はボクの話を聞き入れてくれないんだろう。
だけど信じている。君は素直になれないだけなんだよね?
今までの悪さを一番気にしているのは、君自身なんだよね?
・・・君はあの日を覚えているだろうか。
皆で遠くの山にピクニックに行った日。遊んでいると、遠くの方で君がこっちを見ているのに気づいたんだ。
ボクは少し怒った。
また悪さをするんだと思って。
けれど君は何をするでもなく、背中を向けて去っていった。
最初はなぜだかわからなかった。
少し考えてわかった。
君も本当はみんなと遊びたいんだって。ちょっと恥ずかしいだけなんだって。
だからボクは、皆と一旦別れて君を追いかけた。
山奥の森林、いつも君が乗っている機械の前で追いついた。
「待ってバイキンマン!」
「・・・なんでここにいるんだ」
「さっき見かけちゃって」
ちょっと照れ笑い。何も考えずにきちゃったな。
「なんだよ」
「そんな所にいないで、一緒に遊ぼうよ」
「―――!?」
もう悪さなんかしないで、皆と遊べばいい。独りでいるより絶対楽しいと思う。
そして、そのまま友達になれたら嬉しい―――
「ふざけるな!」
「え・・・」
怒ったまま機械に飛び乗り、そのまま君は飛んでいってしまった。
なんで・・・だろう。
何か怒らせるようなことを言ったのだろうか。
ずっと気になる。
それから君に何度も襲われたけれど、ずっと信じてる。
君も本当は、皆と一緒に遊びたいだけなんだって。
信じてる。
「あ・・・」
眼が覚めた。
ここは・・・砂漠の地下洞窟・・・。
そうだ。ボクはバイキンマンと闘って−−−。結構大規模な爆発だったけれど、彼は大丈夫だろうか。
「う・・・」
体がものすごく重い。顔にもダメージが大きいようだ。頭が朦朧としてくる・・・。
引きずるように洞窟内を歩き回る。
「みつけた」
黒い体を横たえ、ピクリとも動かない。
ゆっくりとしゃがみ、首の脈を計ってみる。
「よかった・・・」
生きている。
安堵感と共にそのまま倒れてしまった。
今日は・・・疲れたな・・・。帰りが大変そうだなぁ・・・。
「!?」
意識が回復する。最初に気づいたの俺様の横で倒れているアンパンマン。
首に手が当てられている。首を絞めようとしたのか?
・・・いや、生きているか確認しただけか。そしてそのまま・・・。
くそっ。だからお前は甘ちゃんなんだよ!
今日のなんかは確実に死んでた。壁とドリルに挟まれて。
けれどコイツは当然のことのように俺様の安全だけを確認して意識を失いやがった。
くそっ、くそっ・・・。
「・・・」
横で苦しげな寝息を立てる人工生命体。どこぞの親父が何を思ったのか、パンに命を与えやがった。意味がわからない。
そして、その作られた命であるコイツにいつも敗北する自分。俺様はなんなんだろうか・・・。
―――気がつけば独りだった。
厳しく辛い谷に生まれ、アテもなく彷徨いながら毎日生きることだけを考えた。
カビから生まれた生命体を従え、谷の世界を生き抜いていった。
最初は様々な生物に対応しきれなくもなった。耐え切れずにカビ達と明るい世界に逃げ出した。
初めて会う俺様と同じ姿をした者達・・・。
そこは公園と呼ばれる場所であり、皆楽しみながら遊んでいるのが見えた。
ただ眩しくて、そこに近づいた。
「ん、君だーれ?」
「・・・!?」
初めて話しかけられた。不思議と言葉はわかった。
「え・・・うゎ!なんだよそれ!」
「・・・?」
俺様の後ろに着いてきているカビ達を指して言った。
・・・その後はトラウマだ。
石を投げられ、暴言を吐かれ続けた。
その時のことは忘れない。忘れられない。
・・・一生。
俺様はゴミ捨て場に潜み、機械という存在を捨ててある本から学んだ。
見よう見真似、そして勘で作り上げ、1つのUFOのような物体ができあがった。
それを駆使し、激戦区であり、唯一俺様が住めそうな谷の頂上を1つ勝ち取った。
そこにカビ達と城を立て、そこで暮らしていた・・・。
数年が過ぎただろうか、少しの好奇心と少しの期待を込め、俺様はもう一度町に降りた。
―――また、拒否された。
そして吹っ切れた。
その後何度も町に降り、悪さを繰り返した。
こんなことをしても何もならない、虚しくなって孤立するだけだとわかっていた。
それでも、続けた。
「・・・馬鹿が」
そんな俺に、輪に加われとコイツは言った。何も知らず、生まれてからずっと幸せなヤツが。
大体コイツがよくても、回りがそうだとは限らない。俺様はずっとアイツ等に悪さを続けてきたのだ。
回りが拒否した時に非難されるのは、連れてきたコイツなのだ。
・・・何を考えているのだろう。俺様は独りで十分の筈だ。
「・・・」
今ならコイツを消せる。
顔を粉々にし、体を隠せばコイツの存在は消えると言っても過言ではない。
それでいいのか?
俺様が求めたのは完勝だ。こんなお情け同然の勝利を勝利と呼んでいいのか?
「くそっ」
今回は・・・見逃してやる・・・。
「ん・・・」
「起きたか」
「バイキンマン・・・。無事でよかった」
にへらと笑うコイツを踏みつけたい。俺様には一生できそうにない笑顔だ。
「・・・次は勝つからな」
「君も頑固だなぁ・・・。それより、今度パン工場にオニギリ―――」
「!?」
二人同時に体が固まった。
理由は言葉では表現しにくい症状だ。
わかりやすく言えば、体が砂になっている。
洞窟内に不気味なラッパの音が響く。
「お前は・・・」
「砂男・・・!?」
「しまった・・・!」
砂漠地帯は砂男のテリトリー。
しかし広大な砂漠で少し争う程度ならバレないと思っていた。
「ふぇ〜ふぇ〜っふぇ〜。何をしているんだぁ〜い?アンパンマンにバイキンマ〜ン」
楽しそうに砂男は喋る。
「どうして・・・わかった」
「あ〜んな爆発起こされちゃ、気づかない方が変だよー」
爆発は当初の計画外の行動だ。大失敗と言っていい。
体の内から砂に変わっていく独特の感覚に、二人は対応できない。
「何をするんだ!」
「ふぇ〜ふぇ〜。お前達が邪魔だから〜ちょーと砂になって固まってもらおうと思ってねぇ〜」
「・・・っち」
バイキンマンの方は既に悟っていた。
この状況を打破する術はないと。
傷つき、疲弊した状態に加え体の半分が砂化している。
いずれ脳にまで砂になり、思考は停止するだろう。
・・・もう、足も動かないのだから。
「オイ、俺様はお前を倒すまで死なないからな。よく覚えておけ」
「バイキンマン・・・」
二人の抵抗はなくなり、体の変化が早くなる。砂男がラッパを吹き続けているからだ。
パンは首から上以外砂になり、黒い男は右肩と顔を除き砂になっている。
その中、黒い男は、砂男にバレないように慎重に、1つの小型機械を放り投げた。
「今回は人頼みだ。しつこいようだが、決着はまだついていないんだからな」
「何をしたの・・・?」
「・・・いずれわかる。わからなきゃ死んでるだけだ」
「?」
黒い男は鈍いパンに腹を立てる。意外に余裕があるものだと、心で少し笑いながら。
「あばよ、アンパンマン」
「・・・えと、またね。バイキンマン」
その言葉を最後に、砂の侵食は二人の体全体に及んだ。
「ふぇ〜〜〜っふぇっふぇ〜〜!」
残った地下洞窟に残るのは、砂男の笑い声だけだった・・・。
明日の闘い
「・・・バイキンマン・・・?」
「・・・驚いたな」
二人・・・という言葉の表し方が適切であるかは誰にもわからないが、何も写らない、ただ暗闇と漆黒を混ぜ合わせたかのような 黒 しか存在しない空間に二人はいる。
お互い相手の姿を目視するのは不可能だ。視覚と言われる機能が働いているかも判らない。
「ボク達砂になったんじゃ・・・」
「厳密には仮死状態の様なものだな。まだ解明されてないが意識パターンの波長が合うことによる―――」
「やだなぁ。そんな難しく考えるのやめようよ」
体があるかも判らないが、頭上から拳を叩きつけたくなる衝動に駆られる片方。
「・・・根拠がないからいいがな・・・! お前はもう少し楽観的な思考を捨てた方が―――」
「ところで固まる寸前に何をしてたの?」
「・・・!」
もし正常な体があれば怒りで体中を震えさせただろう。まともに自分が考えた推理や論理も通用しない馬鹿パンが憎らしいようだ。
「・・・はぁ・・・。アレは遭難用の救命信号みたいなものだ。万が一機械が壊れ、一人で砂漠を抜けられなかった時の保険。カビ達じゃ砂男には勝てんから―――」
「助けを呼んだのなら大丈夫だねっ。少し眠いなぁ」
「・・・・・・・・・・・・・」
「アンパンマン達遅いわねぇ・・・」
「そうだなぁ・・・またバイキンマンに襲われたのか・・・」
二人のパン職人はパンを作る手を止め、椅子に座りながら我が子を想うようにパンを心配する。
今日は流浪のオムスビマンがパン工場に訪れ、自分のオニギリの味を披露してくれるのだ。旅の途中にはいつもオニギリを自作しているコトによる成果、とも言える塩加減などは一般家庭でそう食べれるものではない。決して共食いでもない。
「失礼いたす」
予定時刻通りに重い扉を開いた男。長年流浪を続けたタメ、異常に発達した足の筋肉が服の隙間から見える。愛用の笠を入室と同時にとる。
「実はパン工場の前に―――」
「あぁ、その前に風呂が沸いてるから入ってきてもらえないかしら?」
「服はワシ等で洗っておくよ」
二人は笑顔だが、清潔がモットーの職場で旅歩きの埃をバラまかれるのは少々苦しいものがある。
「あ、はい。いえパン工場の前に―――」
「タオルと石鹸を渡しておくわね。入ったら服を取りに行くから、出たらこの寝巻きを着ておいて」
「それじゃあ、ゆっくりしておいで」
「は、はい・・・」
1つの道の職人というのはこういったコトに厳しい。これが世の常と言えよう。男の気の弱さは決して平均より劣っているわけではない。職人の気迫が、YESしか言わせない凄みがあるのである。
アンパンマンが人の話をあまり聞かないのは製造者の影響があるのかもしれない。
カポーン
「・・・どうもでござる」
「早かったね、こっちに座りなさい」
「寝巻き似合ってるわよ」
清潔になりさえすれば二人は本当に優しい。黒い気迫も既に消えている。男も草色の寝巻きが栄える。
「失礼、宴会の方の開始時間にはまだ余裕があるハズですよね?」
「ええ、今からゆっくり旅の話を聞いてからオニギリを作っても間に合うわ」
「お餅とお茶の準備もできているよ」
「かたじけない」
男が好物であるできたての餅に手を出そうとした時―――
「ジャムおじさァーーん!!」
ドアが乱暴に・・・いや、慌てて開けられた。
「大変なんだ!森が・・・!森が・・・!」
「どうしたんだい?」
このカバ男、名をカバオという。毎回問題が起こるたびにパン工場へ泣きついてくる伝達役兼トラブルメーカー。
「と、とにかく見てよ!」
と、工場の隅に設けられた旧式のテレビを指す。
助手の職人が素早い動きでテレビをつける。
そこには・・・
「「!?」」
ここから10キロも離れていない近場の森が、砂となっているのだ。
美しかった新緑の木々たちは一本残らず砂色へと塗り替えられ、弱弱しく立っている。さしずめ砂の森とでも名づけられそうな風貌である。
常識的に考えればありえない事態だ。
「・・・これはどういうことでござろう」
餅を食べれなかった寂しさはもはやあらず、荒仕事をする顔をしている男。
「わ、わからないよ・・・けど」
[ピィーーガァーーーアアァ!]
男が持っていた何かが音を立てた。
「オムスビマン、なんだいそれは?」
「あ・・・っと忘れていた。先刻ドアの前にこの妙な機械が落ちていたのでござるよ」
っと、怪しげで汚い機械を調理机の上に置く。
一瞬職人二人の顔が強張るが、緊急事態なので仕方ない。
[ざーーー座標ーーー東地区第3オアシスより3キロ先のちーーーかーーーー・・・・ががががが]
多量の砂を含んだタメか、小さな煙を立てて壊れてしまった。
このような精度の機械を作る技術者はこの周辺に一人しかおらず、これはその人物がこんなものをよこす理由は、罠か救命信号だ。そしてこの状況を踏まえて考えてみれば後者の確立が高いと、男は判断した。そもそもパンさえいなければ、あの男が職人達を消すのに一分もかからない。
「そういえば・・・アンパンマン殿が見当たらぬでござるが・・・よもや」
黙って頷く職人達。カバ男は恐怖のためか、ただ泣いている。
「コレは仮説でござるが―――」
バイキンマンはアンパンマンと闘い、何かの形で身動きがとれない程の重傷を二人とも負ってしまったのか、もしくは戦闘中に横槍を入れられ、殺された・・・もしくは砂男に砂人形にされたか・・・と、重々しく自分の意見を冷静に語る。
「砂男か・・たしかにこんな現象を起こせるのはアイツしかいないわね」
「バイキンマンとアンパンマンはこの周辺では異形の者達と渡り合える少ない人材でござった。その二人を同時に砂人形にすることができたのならば、一番手短なここを自分の勢力下に置こうとするのも自然な話。砂男とて、いつ他の怪物に寝首をかかれるかわからぬ身・・・土地は広い程安全も高まるのだから」
「・・・ふむ。備考としては、アンパンマン達は砂人形にされた・・・と言うのが正解だと思うわ。砂男は殺すよりも人形にして鑑賞するのが好きだったハズだもの・・・」
助手の顔つきは男と同じ、荒仕事を扱える人種の物だ。
「・・・あまり良い状況とは言えませんな。アンパンマン殿を復活させるにしても、砂男と闘いながらでは拙者もどこまでやれるか・・・」
砂男は強い。
過去に対峙したことのあるオムスビマンや、職人達もその強さには一歩退いてしまいたいものがある。親方職人であるジャムは、話を聞きながらお茶をすすっている。歳のなせる落ち着きとしかいえない程、ゆるやかな物腰だ。
「大丈夫、アンパンマンの方は私に任せて」
「・・・危険でござるよ」
「いくつか死線はくぐったわ」
そう、この女性はアンパンマンの顔を取り替える作業に特化されている。顔を投擲物のように扱い、今までの顔を落としつつ新しい顔にピッタリはめるのだ。
その理由・・・それは昔彼女が所属していた王国に帰結する。
彼女はとある王国の実行部隊・・・主に重要ポイント等に投擲物を投げつけることから弓等を使った暗殺・・・そういった突撃部隊の補助を行う荒事を専門に扱っていた特殊部隊の出身なのである。
その腕はたしかなものだ。
「・・・ならば何も言いますまい・・・行きましょうか」
「話はまとまったようだね」
老骨ジャムは静かに続ける。
「それじゃあ移動機の準備をするけれど、オムスビマンは自分で走った方が速いようだけど?」
「そうですね、自分は一足先に向かわせてもらいます。えっと、服はどこでござろう」
「あ、煙突の中に干してるわ」
「・・・もう少しまともな所はないのでござろうか?」
「すぐ乾くのよ」
「うぅ」
男が作戦を決めておく。職人側は今から砂漠地帯用のタイヤに交換した後、砂男と闘っているオムスビマンの横を行き、助手が顔を取替え、アンパンマンを蘇生させた後、砂男を倒す・・・。
「では、失礼!」
階段を急ぎ足で昇り、煙突部分に繋がる扉を開き、一瞬で旅装束を身に纏い、窓から外へと男は飛び出していった。
「それじゃあワシ等もとりかかろうか・・・。カバオ君。君はもう帰ってもいいよ」
「は、はい!」
老人は戦場の空気の中では完全な部外者だったカバ男を帰らせた。彼にできることは何もない。
「さて・・・勝てるかどうか・・・」
老人はただ眼を細く、先兵の男を心配する。
共に向かっては同時に砂男と闘うことになる可能性もあるため、単体で行かせる選択が最良なのだが・・・。危険が大きいのは自分ではなく若者達。その歯がゆさは老身に響かせた・・・。
「え・・・これは」
「・・・なんなんだ一体ここはよ・・・」
暗闇の中、突然黒以外の色が射したと思えば、それは自分達が住む現実世界の光景だった。
砂が緑を侵食した光景。
二人はただ呆然としか直視できない。
「そうか・・・俺様達がいなくなったから砂男め・・・調子にのって縄張りを増やそうってか」
「こ、このままじゃどうなっちゃうの?」
「町はまず滅ぶな。町人は全員アイツの趣味の砂人形にされて永遠に砂漠のどこかで鑑賞されるってとこか」
「そんな・・・」
沈むパン。感情で変化しやすい声は切なさが含まれる。思い出すのは自分の生みの親達やよく遊ぶ町人達。
「・・・大丈夫だ。俺様があんな怪物を好きにさせるわけないだろう」
珍しく慰めに入る黒い男。よっぽど珍しかったのか、パンは驚いて少し言葉がでなかった。
謎の光には走っている男も映されているが、それすら眼に入っていない。
「・・・今は砂人形にされちゃってるけどね」
「るっさい」
ただ、駆けた。
拙者はただアンパンマン殿を助けたい。過去に助けられた恩の一部を返すため・・・そしていつも流浪の自分によくしてくれるパン工場の人達を救うため、微力でも自分の力が役立つのならば、迷いは・・・ない、ハズだ。
正直死と隣り合わせの状況は好きではない。ただのんびりとした生き方を選びたくて、流浪人に人生を差し出した。
今日もいろんな町人達や古い付き合いでもあるジャムさんと話すタメに着たと言ってもいい。
戦闘はいつでも残酷だ。予想もしないところでいつも訪れる。
拙者は闘いなぞ好きではないのに。
「・・・着いた」
考えている間に現地である砂漠についた。最短ルートを選んだのだが、思ったより早い到着だ。
途中の砂の森でさえ、今の男の精神状態ではゆっくり感想を述べる余裕はない。
「・・・っく」
砂漠の地面から何か湧いてくる。
砂男の下僕である砂子供達だ。小さいながらも一匹で家一軒を破壊するのも容易な力を秘めている。
「―――ご免!」
腰に挿した刀を引き抜き、男は再度駆ける。
「きぃ!」
男めがけて鋭いパンチを繰り出す。しかしそれは既に残像。目標を失った力は、砂漠の地面を叩き割る。
細かな砂の粒子が即席の崖からサラサラと落ちていく・・・。
「っし!」
空気を肺から吐き出す音と共に、剣を振るう。抜いたハズの腕は既に元の位置に収まっている。
剣筋を見切ると言う考え自体が間違いだと囁くかのような、綺麗な動作だった。
「っきぃ・・・?」
砂子供は一瞬自分の体を把握できなかった。
ゆっくりと上半身と下半身が分離する感覚など通常では一生経験しないものだが、砂であるこの生物は生半可な攻撃ではすぐに傷口が再生する。だから半分にされた程度ではすぐに元通りになる・・・ハズだった。
思考が途絶える寸前に気づいた。砂子供は斬られたのではない。
斬り刻まれたのだ。
次の瞬間には砂子供の原型は欠片もなくなり、細かな砂だけが地に落ちていった。
「・・・次ぃ!」
地面から次々と湧き出る砂子供を前にしても、男は果敢に突撃していった。
「それじゃあ・・・行こうか」
「はい・・・」
老人は愛用のゴーグルをつけ、助手は新しい顔を焼いている。
「・・・発進!」
重い声と同時に、大型走行機は動き始めた。パン工場のガレージを抜け、まっすぐ男が通った道をなぞり始める。
「・・・砂人形を元に戻す方法の確認はとれたかい?」
「はい。やはり資料通り、砂男事態を倒すか、塩分を含んだ水分を与えればいいそうです」
「ふむ・・・塩水は材料庫のを使ってくれ。顔は高温にしてすぐに焼けるようにしておくれ」
「わかりました」
「・・・オムスビマンは大丈夫だろうか・・・若い物に一番危険な役目を負わせるのは苦しいものだ」
「そんなこと言わないで下さい・・・彼も私も、アナタにお世話になったからこそ命を賭けられるんですから」
「ありがとう・・・バタコや、チーズの鎖は解いてくれたかい?」
「もちろん」
チーズとはパン工場で飼っている犬のことだ。様々な生物が言語を理解するこの世界で、なぜか犬だけは喋れない神秘があるのでペットとして飼われていた。戦闘能力も補助もまだ訓練中なので、万が一自分達が戻れない時には逃げられるように、との処置だ。
闘いとはそういうものだ。
「塩水と新しい顔、できました」
「ご苦労。作戦が始まるまでゆっくりしておいておくれ」
「・・・はい」
太陽まで砂塵で覆われた森周辺を見て、自分が今からどれだけ強大な化け物と闘うかを改めて理解し、恐怖を感じる老人であった。
「なんだか・・・凄いことになってるね」
「そうだな。勝算は5分といったとこだな。オニギリ野郎がどこまで持つか・・・」
「だ、大丈夫だよね。きっと」
パンは動揺し始めている。何か不安なことがあればいつでも自ら前へ出て、何もせずに見ているなんて選択を選んだことが無いためだ。歯がゆさだけが彼を包んでいる。
「さぁなー。俺様達が復活すれば勝算は大きい。砂人形にされることでさっきの戦闘での傷は大体止血されているからな」
砂人形になることでの唯一のメリットと言ってもいい。体中を砂にされることによって血液の流れすら完全に凝固され、結果的には完璧な止血といったことになる。
そんな危険を孕んででも砂人形のまま置いておく砂男の趣味は病的と言っても不適切ではないだろう。
光の中ではただ男が砂子供をなぎ払いつつ、自分達の洞窟へと前進している。
遅れてジャム達も砂漠へと入り始めた。
「神のみぞ知る、だな・・・」
重々しく現状に合った言葉を出す。
「なにそれ?」
「・・・黙って見てろ」
「っはぁ―――ッハァ―――!」
男は確実に疲弊していった。
それは目的地である大穴が空いた洞窟の目の前で、だ。
理由は簡単。
極限の集中力を振り絞りつつ可能な限りの最高速度で前に進むのは常人では数分とも持たない行いだ。
それを数十分以上も一切手を緩めずにここまで着たのは流石を通り越す仕事だ。砂子供も数が増えてきたが、それでもこのままなら洞窟内まで突っ切ることができたろう。
それができないのも、男は十分理解していた。
「〜〜〜♪」
「やはり―――来たかッ!!」
「ふぇ〜〜〜っふぇ〜っふぇ。順調に家を増築しているんだぁ〜邪魔はしないで欲しいなぁ〜」
圧倒的な大きさを見せつけ、砂塵の隙間から僅かに射す逆光を背に、砂男は流浪人の前に現れた。
隙なぞどこにあろう。無理をして脇を通り過ぎようとすれば、想像できるビジョンは死しか見えない。
けれども男は止まれない。止まれば50を越える砂子供達の餌食になるからだ。
だから
「ハァッッッッ!!」
―――男は跳んだ
旅で異常発達した足に鞭を打ち、手短な砂子供を踏み台にして砂男の顔面近くまで跳躍したのだ。
いくら砂男と言えども、顔面を斬り刻まれれば再生に時間がかかってしまう。
しかし、必死な男の策を前にしても、砂男は冷静だ。
「っふん!」
金属と金属がぶつかり合う高音を砂漠に響かせた。敵を砂人形にする際に使用するラッパは、同時に砂男の矛でもある。
何故ココまで自分の力が通じぬのか。
何故ココまで強大な化け物が存在するのか。
自分の力量を一撃で理解してしまう。やはりコイツは自分より圧倒的に強いと。泣いてしまいたい恐怖を押し殺し、着地地点にいる砂子供を一瞬でこま切れにしながら、時間を稼ぐタメだけに再度砂男に挑戦し続けた・・・。
「らぁあああぁああ!!!」
「―――見えた!」
老骨は叫ぶ。
「準備、できています」
専用のゴーグルを顔に纏い、右腕には新しい顔、そして腰には大量にくくりつけられたボトル。中にはもちろん塩水。
「ふぇ〜っふぇ〜!そろそろ来ると思ったよぉ〜」
人間では遠目で豆粒にしか確認できない距離を、戦闘中の怪物は容易に気づく。
少しずつ近づいて気づいたのは、ボロボロの男が攻撃の手を一切緩めずに挑んでいること。
「・・・バタコ。手はず通り行くよ」
「わかりました」
二人の顔が強張る。リスクが非常に高いからだ。しかし怪物の裏をとるにはコレしかなかった。
バタコは走行機の上から外に出る。飛び降りるタイミングを打ち合わせ通りにするために。
「オムスビマンさーん!避けてー!」
もはや返事を出す気力もない男は、本能のまま横へと退避する。
「ふぇ〜〜〜ふっぇ〜〜〜な〜〜にを・・・?!」
怪物・・・砂男は驚いた。走行機は真っ直ぐ自分の方向へ向かってくるのだ。緊急回避という本能は怪物にはない。今までそんなことをしてでも避けなければいけないほどの大型を相手にしたことはなかったタメだ。
その焦りが、戦場で最も致命的な一瞬の油断を生み出したのだ。
「食らえ!砂男ぉおおぉ!」
ただ老骨は叫ぶ。臆病な自分を奮い立たせるために。
ぶつかる寸前に助手は穴へと飛び降りた・・・。
「ふ〜〜〜ざけ〜〜〜るなぁ〜〜〜!」
既に直撃を避けられない砂男は、渾身の力を地面に叩きつけた。
そして走行機の直撃を一身に受ける。
「な―――に―――」
その衝撃は大きな物だった。
それは砂男によって弱められた地盤を破壊する程に。近くの大穴によりただでさえ不安定だったジャム達の足場は、砂男の一撃と走行機との激突により、更に大きな大穴を生み、その場の全員を地下へと誘ったのだ。
「ぁ・・・・ぐ」
助手は意識を一瞬だけ朦朧とさせた。着地と同時にそこそこの大きさの岩盤を背に受けたからだ。吐血をする程の傷も今の彼女には関係ない。
作戦を成功させねば死ぬだけなのだから。傷を負いつつもリアリストになれる精神力こそが彼女の過去の戦績によるたまものである。
「急がない・・・っと!」
持続性こそないものの、瞬間的なスピードで言えば男を越えるモノを彼女は持っている。実行部隊で最も必要な要素の1つだったからだ。
懸命に視界を広げつつ、二人を探す。
索敵も得意分野だった彼女にとって砂人形を見つけるのにかかった時間はほとんどない。今最も脅えるのは砂男が自分を発見することだ。
恐怖を振り払うために速度を上げて走った。
「・・・っく。あ〜いつらめぇ〜よくもよくも・・・! ん?」
怒りを放ちつつ最初に眼に止まったのは・・・・とても素早く動く助手の姿だった。
そしてその先には―――
「ふぇっふぇっふぇ・・・」
「砂男ぉぉ!!」
「ん〜?」
突如に現れた男の一閃さえ軽く止めてしまう怪物。手負いの彼を振り払い、助手を追うこともできたが、あえてそれをしなかった。
少しずつ助手の目的地に近づくだけで、止める気は砂男には全くなかった。
「―――おかしい」
攻撃を緩めずに男は思った。
この怪物の実力ならば速度の落ちた自分の攻撃を払いのけ、視界の隅で走っている彼女を追うことができるハズだ。なぜそれをしない?
けれどそれを考えつつも自分が攻撃を緩めるわけにはいかない。本気で奴が気づいてない奇跡的可能性すらも縋ってしまうからだ。
「くそぉぉぉお!!」
どうしようもない怒りを刀に乗せ、男は突撃し続けた。
「いける―――」
この距離なら間に合う・・・。向こうの方でオムスビマンさんが砂男を止めてくれているから。
これなら体力も持つし―――大丈夫!
残り約50M・・・・。急がなきゃ。
「ふぇっふぇぇぇ〜〜〜〜行けぇぇぇ!子供達よ〜!」
突然砂男が洞窟中に響く声で叫んだ。子供・・・・?
まさか。
「っきぃ!」
「っきぃ!」
「っきぃ!」
目の前に三匹、そして洞窟中にも次々と現れている・・・!?
「・・・大丈夫―――!」
死の覚悟を背に、砂子供の手前で私は速度を最高速度にする。
「らぁあぁぁああああ!」
砂の中から突然大型機械が飛び出し、先端部分から巨大な水玉を発射し、助手の道を遮る砂子供を泥の塊に変える。
「―――ありがとう!ジャムおじさん!」
活路を開いた助手は泥の脇を通り、迅速に砂人形の二人に全ての塩水をふりかける。
「ふっぇっふぇぇぇぇ〜〜〜〜っふぇえぇえ〜〜〜〜!!!」
しかし一番嬉しそうなのはピンチになる筈の砂男だった。
「え・・・!?」
塩水をふりかけた砂人形は二つとも粉々に砕けてしまった。
「どう・・・して」
その場に居る者達は固まった。戦慄とはこのような感情であろう。現実を理解する恐怖が助手の思考を一瞬止めた。
その隙を逃がさないと言うかのように、砕けた地面から何かが飛び出る。
「危ないッ!バタコさん!」
「え・・・?」
一瞬だった。潜んでいた砂子供が助手の抱えている新しい顔を破壊するのは。
「ふ〜ん」
「ぐ・・・っあ!」
砂男によって助手の目の前へと男は飛ばされた。受身と同時に砂子供を斬り刻んだのは本能的なものだ。自分達の希望を砕いた敵を、怒りと言う感情によっていつもより多く刻んだ。
「どういうことだ!」
「それはね〜ダミーなんだよ〜ふっぇふぇっふぇっふぇっふぇ!」
「な・・・」
「急いで作った物だけど〜巧くできているだろぉ〜? 本物はその下に埋まっているのさ〜」
「そんな・・・!」
助手は慌ててその下を掘ってみる。
・・・すぐに顔がボロボロのアンパンマンと、バイキンマンの頭が出てきた。
こちらが本物だとはすぐにわかった。余裕さえあれば先程の砂人形が偽者だともわかっただろう。
極限状態での焦りが助手の思考回路を鈍らせたのだ。
「そ〜し〜〜て〜あの厄介な機械にはまだ塩水があるだろう。それを補充させる馬鹿はし〜なーい」
こちらに走っている走行機を、砂男が襲いかかる。
「後は子供達にやられておくれぇ〜っふえぇ〜〜〜っふぇっぇ〜〜」
「バイキンマン・・・・」
「・・・砂男め、馬鹿だと思っていたが、意外に頭も回ったんだな」
「このままじゃ―――!」
「うっさい!」
「う・・・」
黒い空間の中、絶望感だけが場を支配していく。
「・・・まだ方法はある」
「え・・・?」
「それにオムスビ野郎が気づくかどうかだ」
チェックメイト
拙者はそう思った。
既に洞窟内には200から300匹以上の砂子供が溢れている。
そしてそれを助手を守りながら防ぎ続けるのは不可能だ。防いだ所で増援もこない。
ジャムも簡単には負けないだろうが、それも時間の問題。砂男の勝ちと言っていい。
「そんな・・・そんな・・・」
「バタコさん・・・」
彼女も理解したようだ。この状況を。
「拙者・・・やはり残念でござるな・・・」
少しずつこちらに迫って来る膨大な敵達。死のタイムリミットととってもいい。
今までの旅や、道中に出会った人達、嫌いな戦闘の日々まで頭に再生されていく。
「せめて・・・宴会だけでもしたかったでござるな・・・」
「・・・」
宴会で拙者のオニギリを皆披露して・・・
「・・・オニギリ?」
「ぐぁ!」
ジャムの誇る大型の機械であるが、水の弾を撃ち尽くしてしまった直後・・・ついに破壊寸前のダメージと共に飛ばされ、壁と激突して黒煙を立てて停止してしまった。
横に倒れた大型機は走行機能すら既に死んでいる。
「ふぇ〜〜っふぇっふぇ・・・意外にもったがぁ〜それもここまでだぁ〜」
「まだだ!!」
「ふぇ〜?」
流浪人は叫んだ。
「オニギリを作る時に、大事なのはなんだと思う砂男?」
「・・・な〜にが言いたい」
「大事なのは塩加減だ。強くかけすぎれば舌に刺激がいきすぎるし、少量にすれば味覚の鋭いものにしか味がわからなくなってしまう。拙者がいつも気にしていることだ。
そして拙者は自前の塩を常に携帯している」
「それがどーした!水が無ければただの――――!?」
「気づいたか。考えれば簡単なことでござった」
男は右手に刀を持ち、迷いのない動作で自分の左腕を刻んだ。
「ッグぅ!」
赤い血液がバイキンマンの砂人形の上に滴る。
「や〜めろー!!」
「まだ、終わりではござらん」
手持ちの塩を全て投げつけた。
大量の水分である血液、そして多量の純塩。
条件をクリアするには十分な量だった。
煙が立つ。
「ハーーーーッハッハッハ!!!よくやったぞオムスビ野郎!!!!」
埋まっていた砂を吹き飛ばし、黒い男は蘇った。
「力を貸して―――」
「うるせぇ! 勝手にしやがれ!」
黒い男は駆けた。
いつも機械を駆使しているのには理由がある。基本的な能力はパンと大差のない黒い男だが、あいにくと飛行能力に恵まれておらず、いつも浮遊機械によってパンと戦っていた。
「ふぇ〜!? バイキンマ―――」
「うるさぁーい!!」
砂男の下部分へと拳を振り落とす。
「ガーーー!?」
的確に命中した点は、砂にダイナマイトを爆破させたような擬似爆発が走る。
単純な筋力によるものだ。
「・・・無茶苦茶な男だ」
ふらつく男だが、言葉とは裏腹に安心している。黒い男の選択はこの状況で最も合理的な方法であるのだ。まるで事前に目視し、復活してすぐに行動できる様に作戦を練っていたかのような。
もはや現存戦力で対抗できる者がいない状況だったが、バイキンマンが現れて話が変わった。
「・・・ッ」
その事をすぐに理解した助手は、もはや動けない走行機へと走り出す。男も砂子供のガードのために共に駆ける。少し進むだけでも砂子供3匹と遭遇する。もはや完全に囲まれつつある。
が
そう、バイキンマンが砂男を止めてくれるのならばその時間にジャムと助手によって新しい顔を作り直し、その間の護衛を男がすれば、活路は開ける。
この状況にアンパンマンは復活すれば、砂男とて成す術はない。助手は走行機の中へと入って行く。
幸運なのは後ろが壁であること。満身創痍の男が守るべきはは1面だけで済むのだ。
「例えこの命果てようとも―――恩人達には指一本触れさせはしない!!」
男は命を賭けた。
「ッハ!遅いんだよ!」
「ぐぅぅ〜〜!」
恐ろしいまでの速度でなぎ払った矛での攻撃すら、日頃それを越える拳速を誇るアンパンマンと対峙している黒い男にとっては遅すぎた。ムダの無い動作でしゃがみ、すぐに攻撃に転じる。
「オラオラオラ!俺様の裏をかいたんじゃなかったのかぁー!?」
「がぁぁああ!!」
絶え間無き拳のラッシュは止まらない。動けなかった時の苦しさをも発散させる勢いで砂男の体を削っていく。
本来一対一の闘いなら黒い男は十分に相手を凌駕する実力を秘めているからだ。
本来なら、だが。
「っぐ―――!? 思ったより―――早いか―――」
黒い男は一旦距離をとった。
「・・・ッッ?」
「っち」
「ふぇ〜〜〜っふぇ。そーうかぁ〜お前はまだアンパンマンとの傷が残っていたんだったねぇい〜」
「・・・」
黙って臨戦態勢を構える。
けれど砂男の言葉は正しい。砂人形になることで止血は完全にできた。しかし体に残った疲労と内臓器官へのダメージは止血だけで完治するレベルではない。
残念ながら、まだ怪物側の有利は変わらない。
「これくらい丁度いいハンデだよ・・・俺様にとっちゃなぁ!」
それほど高性能ではない自らの羽をバネにし、再度立ち向かった。
「バタコ、どうだい?」
「大丈夫です―――これなら焼き上げる時間抜きで2分以内にはできます。塩水は既に準備完了」
今までにない速さで新しい顔・・・いや、希望とも言えよう。それを作る。
手の動きはもはや素人目では何をしているかすらわからないだろう。いつもよりもずっとスピィーディに、かつ丁寧に作り上げていく。
死を隣り合わせに二人の脳内には恐ろしい濃度の脳内麻薬が分泌され、結果的に通常の職人を越える精度で仕事を進めることができるのだ。
「基盤完成、後のは私だけでもできます」
「頼むよ・・・こっちを何とかしないとね」
壁に激突した際に大部分に深刻なダメージを負わされたものの、一度程度なら焼くことができるようだった。
しかし、呑気に待っている時間はない。
「・・・頼むぞ」
先程まで走行機を走らせていた動力源・・・多量の高級木炭だ。それを全てかき集め、かつ戦闘用の火炎放射機を用いて点火させる。
常人なら笑い話にしかならない方法であるが、死を目の前にした二人は至って真面目である。
笑ってしまいそうになるこの術は、成功すれば一瞬で顔を焼き上げることができるからだ。
「顔、できました!」
「よし、点火を頼むよ」
「―――!? いえジャムオジサンが点火してください!」
「バタコ」
「う・・・」
点火作業はリスクが少ない。パンを持ち、ギリギリのタイミングで火から遠ざける恐ろしい手作業には最高の危険が身に纏わりつく。
一歩間違えれば、新しい顔と共に、自分の手が燃えカスになってしまう危険が高い。
「・・・やらせておくれ。若者達ばかりに危険な仕事をさせたくないんだ」
「ジャムおじさん・・・」
助手はそれ以上何も言わず、火炎放射機の安全装置を外す。
「ありがとうよ」
助手はゴーグルをつけるが、親方職人はつけない。極限まで見極めなければいけない作業に余計な物をつければ誤差が生まれるからだ。当然熱風は老人の眼を蝕むだろう。
自分の眼よりも、今は成功率を重視する。迷いはないようだ。
「―――行きます!」
「―――!」
下から高密度の炎が昇ってくる。少しずつその動きがスローモーションになっていく。火が自作のパンへ焼きを入れる。標準の温度を大きく越えた炎は一瞬で下部分を焼き上げた。
だが
本来パンは時間をかけてゆっくりと全体に火を通すものだ。
一面だけを焼いて完成になるわけがない。
「―――」
パン職人としては神のレベルに当てはまるジャム。その手の動きは既に人間を越えたと言ってもいい奇跡だった。
炎に合わせて少しずつパンをずらし、可能な限り全体に火を通す。既に手が焦げ始めているが、老人に迷いはない。
全ては今を生き残るために
全ては若者達に生き延びてもらうために
老骨もまた、命を賭けていた。
「がぁ―――まだ――――だぁぁあ!」
もう何十匹目かもわからぬが、男はまた一匹突進してきた敵を刻んだ。
疲弊した体、刃こぼれの目立つ刀。
その中で眼だけは砕けぬ闘争心で満たされていた。背水の陣とはこのことかもしれない。
ここは通さないと男は言った。
だから何がなんでも守りきる・・・のではない。
既に男の思考回路の中で自分が倒れ、砂子供達が走行機へ襲いかかる未来は微塵もない。どんな手を使おうとも、最後の防衛線であり、一人でも欠ければ全滅するこの状況で自分が馬鹿をするわけにはいかないのだ。
故に男の意志は固く、肉体の限界を超えてでも活動できるのだ。
「オムスビマンさん!」
「―――!?」
「やっとできたわ!」
「おぉ・・・。バイキンマーン!!」
「わかってらー!」
遠くで闘っていた黒い男を呼ぶ。男が助手を守りつつアンパンマンの下へ行くには眼下に広がる砂子供と砂男を、走行機を守りながら相手をしてもらうしか方法がないのだ。
そして走行機の中では、黒く焦がした両手を助手が用意した水に漬け、両目の水分が飛んでしまったので包帯を巻きつけた老人が崩れていた。
ただし、その顔には微笑みがある。
「なめるなぁ〜〜!」
「ッケ!俺様に勝てるとでも―――思っているのかぁぁ!!」
再三の激突と同時に、助手の護衛をしながら男は駆ける。勝利を掴むために。
しかし黒い男とて満身創痍だ。強がっているものの常人なら数ヶ月は入院するべき傷を内に抱えている。
それでもついでと言わんばかりに砂子供を破壊しつつ、砂男と渡り合えるのは拍手すら送りたくなるほどの雄姿だ。
「急ぎましょう!」
「はい、バタコさん!」
もはや疲労を通り越して体は破壊されていると言っていい。酷使した神経は悲鳴をあげ、筋肉組織のほとんどは打撲とフル活動によってボロボロだ。左腕は壊死していてもおかしくない出欠が続いている。
それでも走る。
泣き叫ぶ右腕を振るい、砂子供をなぎ払いつつ。
「アレよ!」
「早く・・・早く!!」
「!?」
「ふぇ〜〜〜〜〜〜〜!っふぇぇぇぇ!!!!忌々しいバイキンマンめ!やぁぁっと限界がきたようだねぇぇぇい!」
「ふざけ・・・るな。俺様がこの程度で―――ぐ!?」
喉から湧き出る熱く、赤い液体が止まらない。意志とは関係のない純粋な体の崩壊。元々近づいていた危険信号の足音は、無茶な相手達と無茶な闘いで全速疾走でツケを払いにきた。
体は既にマトモにすら動かない。歩くことでも今の彼には失神してしまいそうな激痛なのだ。
「それじゃあ、さよぉ〜〜〜ならぁ!!」
「ちく――――しょ―――」
先程までは楽に避けれた攻撃は、確実な死をまといつつゆっくり・・・かつ素早く黒い男の顔面を飛ばさんと迫り来る。
それは本当に、簡単で一瞬のことだった。
「あ――――がぱぁ?」
何かが砂男の腹に巨大な穴をあけている。
「待たせて・・・ごめんね」
「馬鹿パンが、遅いんだよ」
皮肉交じりに黒い男は笑う。ふわりとその前に降り立ったのは一人しかいない。
「大丈夫、すぐ終わらせるから」
「っへ」
「なにを言っている〜!そして何をするんだぁ〜!」
狂ったように怪物は叫ぶ。
「本気をみせてやるぅぅうう!!」
洞窟中の砂子供が少しずつ砂男に吸収されていく。
「・・・君はもう許さない。罪もない木々達を砂に替え、ボクの大事なみんなを傷つけた・・・!絶対に、許さない!!」
日頃甘いパンは、怒りを一心にまた突撃していく。
「やったでござるよ・・・」
「そう・・・ね」
アンパンマンを復活させた後、迫り来る砂子供を最後の力を振り絞って相手にしていた二人。
砂男が吸収したおかげでようやく一息つくことができた。しかし遠目で見てみれば、黒い男に削られた部分も完全に消え、ビル並の大きさになった化け物が見える。
まだ終わりではないのだと、悲しい実感が湧いた。
「死ねぇぇぇえ〜〜〜!!」
「あぁぁぁああぁあ!!」
怒号と共に怪物の右ストレートをかわし、ビル並の体を壊していく。砂であり、些細な攻撃を無力化する砂男でも吹き飛ばされた部分までは再生できない。
少しずつ、確実に砂男の体は減っていく。
「君はどうして住処でじっとしていられなかったんだ!?」
「っは〜ん!仲間達を増やしたいからに決まってるじゃないかぁぁ〜!!」
「仲間・・・?」
「お前も他の奴らが余計な事をしなければ仲間になれたと言うのにぃ〜」
「ま、まさか・・・」
砂男に仲間と言われる味方は1つだけだ。
そう、それは砂子供。そして先程の言葉から導かれる答えは―――
「砂子供達は元は人間だったのか!?」
「ふぇ〜〜ふぇ。そ〜うさぁ〜!だってみんなみんな仲間になってくれなかったんだよぉぉ〜」
「・・・ふざける―――なぁ!!!」
「っが・・・!」
巨体はまた確実に減らされた。気合と共に打ち出された拳は、再度腹に大きな穴を開け、防ごうとした両腕すらもぎ取る。
体の面積を減らして再生するも、大きな消耗であろう。
「どうして―――どうして普通の方法を選べなかったんだ―――!?」
「そんなこと・・・できるわけがないじゃないかぁ〜〜〜!」
「なぜ!?」
今まで完全な敵だと判断していたパンは、解答が判らぬ故に迷いが生まれる。
「お前にはわからんよ、アンパンマン」
「君は・・・」
「おぉ〜〜わかってくれるのかぁ〜〜〜い?」
当初対戦していた際に使っていた愛用の浮遊機体。既に片腕はもぎ取られているが、問題なく一人と一体の後ろにいつの間にか浮いていた。
「異能者たる力を持つ俺達は、一般人とは決定的な格差が生まれる。一般人との違いは自分でもわかるだろ?恐ろしいまでの違いがな。お前はジャムという渡り橋があったからこそ皆と仲良くできるに過ぎないのさ。実際は、自分の平穏を邪魔しそうな怪しい者としてしか人は見てくれない」
「そ、そんな・・・」
「そうだ〜よー!それが言いたかったんだぁ〜〜。君も実は仲間だったんだねぇ〜〜〜」
黒い男は黙って、残ったハンドで中に水が入った銃を構える。
「けどな馬鹿パン」
「え・・・?」
「どんな経緯があろうとも、コイツがしでかしたことは消えない。同情なんて成分が混じろうとも・・・起こした事には責任をとる。
それが、現存する全ての生物共通の責任だ。コイツを放っておけばどうなるかは理解しているハズだ」
「・・・・・・わかった」
「ふえ?っふえ〜!?」
「ならいい。俺様がフォローしてやる―――やるぞ」
「うん―――!」
黒い男は、パンが でも だからって 等の言葉を口走れば銃をパンに撃ち、自分で砂男を倒していただろう。
浮遊機械は戦闘地から遠くへあり、誰かにとりに行かせる余裕も、直接とる時間もなかったが、パンが砂男と闘っている時間を使えば回収することが可能になった。
黒い男が伝えたかったのはただ決定的で現実的なリアル。
今は甘い考えを砂男に向けることはできない。それは十分パンにも伝わったようだ。
「そんなわけだ・・・悪いな」
「そ、そんな〜!?ちょっと暴れたくらいで―――」
「・・・ごめん砂男、ボク以外の人を傷つけ、森すら破壊の危機に追いやった君をボク一人で許すわけにはいかない」
「や、やめてくれぇぇぇぇ〜〜!」
「力を溜めてろ。くたばれ、砂男。相手が悪かったな」
浮遊機械による突撃により、またも腹に大穴をこじ開け、更に修復する前に水を体中に撃ち込む。
「あぁぁあぁああぁぁあぁぁあんんんんん!!!!」
「嫌だぁぁ〜〜!もっと!もっと仲間ぁぁぁ〜〜〜!」
「馬鹿が、仲間とやらは我が身可愛さに吸収しておいて」
「嫌だ!!!嫌だ!!!」
この場に居る全ての者がその一瞬に活目する。この闘いを終わらせてくれる一撃に。
パンはその場でピタリと止まり、一瞬に全てを込めるつもりだ。
「終わらせろ、馬鹿パン」
「ぬぁわあぁあ〜〜〜!?」
「パァァァァァァァぁぁぁぁァァッァアァンチィィィィぃィィィィィィ!!!!!!!!!」
「い、嫌だぁ―――
―――なんで、なんで―――不公平だぁ〜―――が・・・!」
既に体中が水で固められ、砕かれればもう再生はできない。そしてパンの大地が震えんばかりの全力・・・砂男という存在は消えるのだ。
「それでは・・・始めようか・・・」
「はい・・・」
「「作戦成功、おめでとーーー!!」」
同時に人数全員が持っていたクラッカーも炸裂し、パン工場前は一瞬で活気に包まれる。
「いやぁ〜今回はどうなってしまうかと思いましたよぉー」
「ほんとほんと!もう泣きっぱなしだったんだな!」
「怖かったよねー」
学校の一同はそれぞれ感想を述べる。他の町人達も安堵の息と共に、今まで食べたこともない程美味なオニギリを食べる。
そう、激闘により、本来の開始時間とは大幅に遅れてしまったものの、なんとか日が傾く前には開くことができたのだ。
左腕に包帯を巻き、いたる部分に絆創膏の張ってある男や、両手に手袋をつけることにより傷を隠し、いつも通り振舞うジャム・・・そして比較的重傷の少なかった助手もオニギリを食べている。
皆、無理をしてでもこの会を開きたかった。
生き残った実感を味わいたいから。
皆は狂いそうなくらいの幸福感に包まれていた。悲観するほど苦しい状況を乗り切り、皆と過ごせる時間をただ愛する。
自分の命を感じ、他人の命も感じる。
それはなんと贅沢なことなんだろうか・・・と、戦闘メンバー達は噛み締めた。
「ジャムさん・・・拙者は生き残れて本当によかったと、思えるでござる」
「ワシもじゃよ・・・。帰ってこれたんだね・・・」
「ほんっと、もうダメかと思っちゃいましたわっ」
「たしかに・・・。はて?そういえばアンパンマン殿はどこに?」
「ふふっ。大体想像はつくよ」
「そうね・・・」
「・・・あぁ!なるほど」
「私たちも、今を楽しみましょう」
「ええ!」
闘いは終わり、戦士達は休息につく。また激戦というなの運命が彼らを襲うかもしれないが、生き残った皆は今に感動せずにはいられない。
ただ笑っていたいと思っているようだ。
激戦は終わったのだから・・・
「ふぉっふぉっふぉ・・・一見落着だの・・・」
それを見ていたのは黒い男の祖先、バイキン仙人と呼ばれる賢者だ。俗世を離れた彼にとって、どう転ぼうとも関係ないハズだったが、つい気まぐれでパン達に現世のビジョンを見せていたのだ。
しかしそれは誰も知らないお話。物語には誰も知らない真実があるものだ。
賢者は静かに、薄く透明に消えていった・・・。
「・・・まだ迷ってたのか」
「うん・・・やっぱりちょっとね」
「そういう考えが甘いんだ。自分でもしっかり決めたことだろう。ならグジグジ悩むな」
「そうなんだけど・・・」
「〜〜〜」
黒い男はため息吐いた。身体がまだ重いので木に座りながら体重を預けている。
ここは深緑の木々達の日陰だ。
「・・・世の中は等価交換だ。砂男を受け入れられなかった一般人達は、代償として今回みたいな仕打ちを受けた。そしてそんなコトをしでかした砂男はそれ相応の報いを受けた。それだけだ」
「そんな喧嘩みたいな・・・片方がやめなければそんなのがずっと―――」
「やめたら死ぬだけだ。大事な仲間君達と一緒にな」
「う・・・」
「―――線決めはいつでもしておけ、お前の甘さで死ぬのはお前だけじゃないんだからな、馬鹿パン」
「・・・わかった・・・」
「お前のその甘さは一生変わりそうにないな・・・」
黒い男はため息を吐いた。
「えへへ・・・そういえばどうしてここに居るの?」
「別に・・・あの体で本当にパーティなんざするのか見にきただけだ」
たしかに全員生きてはいるが、ボロボロである。よくここまで盛大に開けたものだと感心できる。視界の端に確認できる集団の生命力には驚かされる。主に職人二人と男だが。
「そっか・・・それじゃ」
「ん?」
座っている黒い男の目の前にはオニギリ。もう片手には自分用のも見える。
「一緒に食べようよっ」
「・・・馬鹿が」
「だめかな?」
「俺様は疲れているから動きたくない。食いたいならそこで勝手に食っとけ」
「・・・うんっ」
・・・本当に甘い奴だよ、お前は・・・。
だが、勝つまでは挑み続けるからな。一緒に飯なんざ食うのは今だけだ。
・・・今だけは、許してやるよ。
2005-01-01 Sat 00:00
[未分類]
―――そこは薄暗い森の中
「おはようございます、こんにちは、こんばんは。」
木々の空けた場所で薪に火を点け、暖をとっていた旅人らしき人に喋りかけた少女が居た。
「私は本売りです。
旅の暇つぶしに本はいかがですか?」
暗い森の中、よく見えなかった少女の姿が薪の灯りで少しづつ見えてくる。
茶色く汚れたローブの様な物を着ていて背中には・・・山のように本をたくさん背負っているのだ。
それらの本を紐とも縄とも似つかぬ物体で縛り付けて平然としている。
そんな少女は不思議と不気味の中間・・・と言うのが旅人の印象だった。
「どんな本を売っているんだい?」
旅人が聞くと少女は少し近寄ってきた。
やっと顔が見えてくる。
やる気の無さそうな緑眼に緑の眼鏡、緑の・・・魔女帽子みたいな物を被っている、服以外は緑尽くしだ。
しかし髪は深い深い蒼。
「私が売るのは人生録です」
「それはなんだい?」
旅人は意味がよく分らなかった。本売りは淡々と説明する。
「この本達はみんな未完成。ほとんどが真っ白です。」
「それじゃぁおもしろくないのでは?」
「この本の特徴は・・・今世界のどこかで生きている人の人生がリアルタイムで書かれていきます。」
「・・・それはどういう意味かな?」
「今現在も生きて活動している人の人生が少しづつ自動で書かれていきます。」
旅人はあっけらかんとした。そんな物を信じられるかどうか悩んでいる。
「大丈夫です。あまりプライベートな所は書かれませんから。」
「そんな心配じゃないんだけどな・・・。」
「まぁ見て行ってください。私はまだ見習いなので売れる本が限られているんですけどね。」
「ちなみにお代は?」
「私は見習いなのでお金は受け取れません。
なので本を読んだ感想を・・・それがお代と言うことで。」
本売りはおどけて言った。
「それじゃぁ・・・見せてもらおうかな。」
「はい、ありがとうございます。
現在お売りできるのは―――」


